韓国で340万人動員のヒットを記録したサスペンス映画『黒く濁る村』(康祐碩監督)が日本で公開され、話題となっている。康祐碩監督と主演の朴海日さんに話を聞いた。
◆観客の喜ぶ映画を ――康 祐碩(映画監督)◆
原題の「苔」は、粘り強い生命力で、とてもひそかに静かに育つ隠された恐怖、近づいてくるような、そろそろと上がってくるような恐ろしい村を表現している。
森の中に一人でいる時や、田舎の村に行った時に、一番恐怖の対象になるのは人間だ。無表情な人たちに、どんな違う環境よりも恐怖心を感じるだろう。それは韓国的な恐怖というよりも、田舎で育ったとか、田舎に遊びに行ったときなどの夜に感じる恐怖だ。
それは人間的に作られた恐怖ではなく、自然な恐怖で、日本の田舎でも感じられるだろう。ハリウッド映画でもよく、米国の田舎で起こる猟奇的な事件がある。この映画は韓国的でもあるが、世界中のどの国の人が見ても十分に共感できると思う。
撮影では村のセットと、数十年の年齢を重ねることになる出演者のメークが大変だった。
閉鎖された村で地下通路もあるという設定なので、ある山の木を全部切って約6万平方㍍に村を作った。村長の家は監視するために村全体を、村の人々を見下ろしている設定なので、そのセットには特に力を入れた。
メークについては、役者たちが本当に老けたと見えるようなリアリティーが出るまで、映画は撮らないと決めていた。
老けた顔のメークを何度もやり直し、やっと出来たメークに老けた声を重ねたが、とても苦労した。
私は観客をとても恐れている。観客たちに徹底的に奉仕して、サービスしないといけないと思っている。映画を上映している間、観客は監督に楽しませてもらうことを願っている。韓国の観客が私にくれた一番嬉しかった言葉は、「康祐碩監督の映画は、お金も時間も惜しくない」だった。
常に観客のために撮ることだけを考えている。それが私の映画が成功した一番の要因ではないかと思っている。
日本映画には強い関心を持っている。伊丹十三監督の『マルサの女』を、いつかリメイクして韓国で作りたい。
一番好きなのは黒澤明監督の『羅生門』だ。日本には本当にいい映画が多い。
『黒く濁る村』は2時間40分と長い作品だが、監督の私と謎解きゲームをする気分で、楽しんで観てもらえたらうれしい。また来年公開の新作は野球の映画だ。それも楽しみにしてもらいたい。
◆苦労続きだった撮影 ――朴 海日(俳優)◆
主人公のユ・ヘグクは、村の人たちと対立しながら、最初から最後まで緊張感を持った役だったので、撮影はとても大変だった。
村人に追われるシーンでは、山の中を逃げて土を体に塗りたくったが、土にある菌の影響で皮膚病にかかって体中が赤く腫れてしまった。皮膚病の薬を飲みながら撮影に挑んだが、それが強い薬で肝臓に負担がかかり、副作用でとてもしんどい状態だった。本当に大変な撮影だった。
原作はとても人気のあるコミックで、読者も早く映画化されるのを望んでいた。原作を読んだ後に、作者のユン・テホ氏と会ったが、「ユ・ヘグクというキャラクターを描こうとした時、パク・ヘイルさんを念頭に置いてつくった」というとてもありがたい言葉を頂いた。
アクションシーンが多かったが、主人公は普通の青年なので、特に武術の鍛錬などは意識せずに撮影に臨んだ。原作と映画を比較すると、若干キャラクターに差があるが、それはそれでいいと思う。共演者は大先輩にあたるベテランの方たちばかりで、撮影時の集中力がすごく、とてもいい勉強になった。
日本の人たちにも楽しんでもらえる作品だと思う。
■あらすじ■
原作は韓国で2007年にウェブ連載された漫画。最終回までに3600万の閲覧数という空前の大ヒットを記録し、大韓民国漫画大賞を受賞した。読者から映画化が望まれた作品である。
1978年、韓国の山深い村にあるサムドク祈祷院にやってきた男性と刑事が、”理想の村”を作ろうとするところから物語は始まる。
30年後、その男性は死亡し、生き別れになっていた息子がソウルから訪れる。そして死因を探ろうとするが、不可解な事件が周辺で起き、父の死をめぐる謎が深まっていく。