韓国の代表的陶芸家、芝山 李 鍾能氏の日本初個展がこのほど都内で開かれ、好評を博した。李氏は土の質感と情緒を追及する作家として、独特な陶磁世界である”土痕”作品を発表してきた。
「私が生まれた慶州は、古代国家・新羅(紀元前57年~935年)の都として約1000年栄えた地だ。当時の遺跡なども多く残っている。また生家の近くには慶州博物館があった。そのため新羅の文化や陶磁器に幼い頃から親しみを持ち、その中で育っていった。これが私の『土と炎の旅』の出発点になった」
大学では経営学を学んでいたが、陶芸への思いが募り、本格的に陶芸を始める。そして、「土に対して、火に対して、自らの哲学を創り出そう」と、アジアの陶芸を知る長い旅に没頭した。
83年から智異山一帯で粉青沙器の破片胎土を収集研究する。89年から日本、済州道、台湾、タイの南方文化の流れを追跡研究し、92年からは中国、モンゴル、シルクロードの銘窯銘茶産地を訪ねて北方文化圏の流れを追跡研究した。
さらに2002年から中国南宋の名窯、建窯、吉州窯の調査を行い、その成果をもとに独自の作風を作り上げてきた。
1986年 KBSとNHKの共同制作番組「故郷を如何に忘れん」において、文禄慶長の役の時に日本に渡った鹿児島の薩摩焼きの大家、沈寿官(シム・スガン)先生の初代、沈当吉(シム・ダンギル)陶工を紹介する番組に特別出演したのを契機に、韓国と日本の陶磁が交差した歴史に関心を持つようになる。
2002年には韓国の代表作家に選定され釜山アジア大会で陶芸展を開き、また同年、KBSとNHKが合作したワールドカップ共催記念ドキュメンタリー「東方への旅立ち」に出演し、韓国陶磁器の優秀性を世界に伝えた。2007年には年、ロンドン大英博物館で、白磁の月壺を初公開し、話題を呼んだ。
李氏が独自に作り上げた”土痕”について聞いた。
「土の痕跡、歳月の感触、切実な祈りを表し、同時に、非対象で素朴な美しさを含んでいる。韓国陶磁に内在する韓国人だけの独特な美意識が“非対称の美学”だ。非対称性は完璧なものではないので、逆に変化するエネルギーを秘めている、能動的な美だ。新しい創造は無から始まる。無を持つために、今日も蒔の炎に自身を捨てる」
李氏は慶尚南道の土に、独自に工夫を重ねて配合した釉薬を用いる。日本からこれまで何度か個展の誘いがあったが、今回が初個展となった。
「韓国文化院ギャラリーは会場が広いので、満足のいく点数を並べることが出来ると判断した。レイアウトもすべて自分で行った。今後、陶芸を通して韓日文化交流に貢献したい」