韓国のお正月料理は、トックッ(餅スープ)やマンドゥクッ(餃子スープ)、カルビチム(骨つきカルビの煮もの)、チョン(魚介や野菜などに卵をつけてピカタ状に焼いたもの)などが定番ですが、今年は、お正月に限らずお節句やお祝い事のあるときによく作られるご馳走のひとつとして、「薬食(ヤッシッ)」(鉦縦)をご紹介しましょう。
薬食(ヤッシッ)は、もち米を蒸して蜂蜜、黒砂糖、ごま油、しょうゆなどを混ぜ合わせた甘いソースをからめ、栗、なつめ、松の実などを加えて蒸し上げた餅菓子で、「薬(ヤッ)パプ」(鉦剛)、「薬飯(ヤッパン)」(鉦鋼)ともいいます。
韓国の伝統的な食べもの、飲みものの中には「薬(ヤッ)」のつく名前がいくつかありますが、これらは蜂蜜が使われているという共通点があります。つまり、昔から蜂蜜は薬のように体によい貴重品だったことをあらわしています。
さて、薬食には、ひとつの有名なエピソードがあります。
高麗(コリョ)時代に編纂された朝鮮半島の歴史書『三国遺事(サムグッユサ)』の中に、薬食にまつわる「射琴匣」(サムグカプ)という項が出てくるので、みてみましょう。
488年の陰暦1月15日、新羅(シルラ)の炤智王(ソジワン)が慶州の天泉亭へ行幸した際、どこからか一羽の烏(からす)が飛んで来、口にくわえた封書を落として飛び去った。不審に思った臣下が開けてみると、中には「すぐさま宮中へ戻り、内殿別室の琴匣を射よ」と書かれていた。
一行が急いで宮中へ戻り、琴の箱めがけて矢を射ると、王の行幸中に陰謀を企てていた王妃と逆臣が箱の中から現われ、王は事なきを得た。王は烏の恩に報いんとして1月15日を「烏忌日(オギイル)」と定め、もち米を炊いて祭祀に供えるようになったという。
こんなわけで、現在でも陰暦1月15日に薬食を食べる風習が残っています。
<材 料>(5~6人前)
もち米 3カップ(480㌘)
栗 15個
なつめ(乾燥) 5個
くるみ 30㌘
松の実 30㌘
A
黒砂糖 30㌘
蜂蜜 15㌘
しょうゆ 大さじ1
ごま油 小さじ2
シナモンパウダー 少々
<作り方>
①もち米はといで2~3時間水につける。
②蒸し器にぬれ布巾を敷き、もち米を入れて強火で約20分蒸す。途中、1~2回打ち水をする。
③栗は渋皮までむき、半分に切る。なつめは種をとってざっと刻む。くるみも刻む。
④黒砂糖は、かたまりがあれば砕く。Aを鍋に入れて一煮立ちさせる。
⑤蒸し上ったもち米をボールに入れ、熱いうちに④を加えて手早く混ぜる。よく混ざったら、なつめ、栗、くるみ、松の実も加えて混ぜ、そのまま自然に冷まして味をなじませる。
*最後にもう一度蒸すと、味がさらになじんで、より美味しくできあがります。栗は、生栗が一番よいですが、なければ天津甘栗や甘露煮でも代用できます。その他、ゆでた小豆などを加えてもよいでしょう。