韓日伝統芸能の交流公演「魂をゆさぶる”声”―琵琶・新内・パンソリ」がこのほど、同公演実行委員会と韓国文化院の共催により同院で開かれ好評を博した。実行委員会代表でエッセイストの呉文子さんに文章を寄せてもらった。
去る1月21日、韓国文化院ハンマダンホールにて「魂をゆさぶる“声”─琵琶・新内・パンソリ」を開催した。寒風の中、ホールが満席となる盛況で、伝統芸能のお家元をはじめ、映画、演劇、音楽など各界でご活躍の方々の参席を得て、好評の内に幕を下ろすことができた。同公演は、同人誌「鳳仙花」と「異文化を愉しむ会」、「韓国パンソリ保存研究会日本関東支部」が中心となった。
韓日の伝統芸能の交流は、すでに多様なジャンルのセッションや共演が繰り広げられているが、今回のユニークな「声」の共演には大きな期待が寄せられていた。
舩水(ふなみず)京子さんの演目「おたあ・ジュリア」は、400年以上も昔、豊臣秀吉軍が朝鮮を侵略した文禄・慶長の役(韓国では壬辰倭乱という)を題材にしている。尼僧頭に半袈裟姿で登場した舩水さんは、両親、肉親のすべてを失った朝鮮の貴族の娘「おたあ・ジュリア」の薄幸な人生を、琵琶の幽玄な音色にのせて語り、聴く人に感動と共感を呼び覚ました。参加者の一人は、「その”声”に憑依(ひょうい)されたかのように、深い感動に包み込まれ、泣き叫びたい衝動にかられました。過酷な運命に翻弄されながらも、清く正しく生き抜いた『おたあ・ジュリア』の生涯を語る琵琶の音色は、精霊が宿っているかのように柔らかく森羅万象に溶けていきました」との感想を寄せてくれた。
新内光千春(しんない・みちはる)さんの演目「日高川 飛込み」は道成寺縁起物の一つ。新内節は叙情豊かな語りが特徴で、題材には、駆け落ち、心中など男女の恋に関する人情劇が描かれ、江戸情緒を代表する庶民的な音楽として知られるところである。
今回の聴きどころは、舟頭と清姫の川を隔てての問答で、清姫が川に飛込み蛇に変身し、裂けた口から火炎を吐きながら髪を逆立てて泳ぎ渡るすさまじい光景に、舟頭がびっくり仰天しながら逃げて行くという壮絶な場面。朱の着物に清姫の燃えるような情念をのせ、蛇鱗を模した帯をきりりと締めて恋に狂った女心を熱唱した新内光千春さんの迫力、三味線の鶴賀喜代寿郎(つるが・きよじろう)さんとの息もぴったりで観客の魂を揺さぶった。
金福実(キム・ボクシル)さんの演目パンソリ「沈清歌(シムチョンガ)」は、韓国の5大パンソリの中の一つで、韓国社会において最も重要視される親孝行の思想をテーマにした代表的な作品である。
公演では、沈清の母の葬送場面から沈清を失った沈奉事の嘆き、そして皇城の宴会に招かれる喜びや道中で同居していたペンドクに逃げられたり、水浴び中に衣服を盗まれたりする場面までを、扇子を片手にチャン(唱)、アニリ(語り)、ナルムセ(身振り)をおりまぜながら情感豊かに演唱した。
金福実さんの練り上げられたソリ(声)の迫力に、会場から「オルシグチョルシグ(興をそそる掛け声)」と、絶妙な合いの手が入り、舞台と観客が一体となって盛り上がり、交歓と感動の場となった。終演後「パンソリの醍醐味や楽しみ方を知った」との声が多く寄せられた。
今回の公演が、韓日の伝統芸能の魅力を発見する契機となり、多様な伝統芸能の交流が広まって、韓日友好が深まることを願ってやまない。
◇客席からの声◇
◆パンソリは大迫力 山田吾一さん(俳優)◆
「半世紀も前になるが、韓国のパンソリを初めて聴いて、その迫力に圧倒されたことがある。その日の感動を思い出した」
◆日韓交流に寄与 中垣理子さん(世田谷文学館主任学芸員)◆
「日韓の伝統芸能に接する機会は少ないのでとても楽しむことができたし、日韓交流に寄与する催しだった。世田谷文学館ではこの間、韓国文化を紹介する各種イベントを開いているが、こういう伝統芸能公演もぜひ開催し、区民に日韓の伝統芸能に触れてもらえるようにしたい」
◆伝統芸能大切に 大島享さん(元NHKディレクター)◆
「NHKのディレクター時代、伝統芸能を紹介する番組を作ったことがある。この公演のように伝統芸能が受け継がれるのは本当にすばらしいことで、両国とも伝統を守り続けてほしい」