韓国出身の近代文学研究家で、博士論文「越境する文学―朝鮮児童文学の生成と日本児童文学者による口演童話活動」で、2008年に久留島武彦文化賞を受賞した金成妍さんが、久留島武彦の出身地である大分県玖珠町(くすまち)で韓国文化と久留島武彦の講座を行い、評判を呼んでいる。
◆「韓日交流の小さな出会い」 金成妍(キム・ソンヨン/韓日近代文学研究家)◆
博士号修得後、韓国に帰るつもりだった私が「久留島武彦文化賞」を受賞することによって日本にとどまり、久留島武彦の生誕地である大分県玖珠町という小さい田舎町で「久留島学講座」(月1回)と「韓国文化講座」(月2回)を定期的に行いつつ、役場の職員研修をはじめ、高齢者大学、女性教養講座、全生徒8名の日出生(ひじゅう)中学校、土木事務所、道の駅などで久留島のことを語り歩いている。その一方、立命館アジア太平洋大学(別府市)で、韓国語を教えている。
昨年5月には玖珠の観光公報大使であるメルヘン大使にもなった。そして昨年11月には、第34回日本児童文学学会奨励賞を、外国人としては初めて受賞した。
1月9日には玖珠で成人式があり、そこで記念講演を依頼されて、170人の新成人の前で講演を行う経験もした。
その際に、「童話の里」を掲げている玖珠で生まれて玖珠を出る子ども達が久留島の童話を一度も読んだことがない(ほとんどの町民がそうであるが)事実が悲しくて、成人式では私がこしらえた「久留島童話現代語訳」をみんなにプレゼントした。
そして「韓国文化講座」では、様々な韓国の文化、例えば昨年11月には玖珠で「キムチ作り体験」を行った。最近では、「韓国の教育事情」について、今月8日は旧正月の後だったので、韓国の伝統的な遊びを体験する講座を行った。
玖珠町という小さな町で今年3年目に入るこの韓国文化講座には、常時30人前後の参加者がいて、楽しく韓国文化を伝えることができている。
大学の講師とは違って、平均年齢が高い日本の地方の人々の前で、何を話せばいいか、最初は緊張して苦しくて大変だった。市民講座は学校とは違って、興味がなくなったり面白くなくなったら、来てくれなくなる。
地元の偉人について、若い外国人がやってきて語るというのは、とても難しいことで、最初は反感を受けないかと心配もした。そのため講座では、一方的にモノを言ったり伝えたりするのではなく、私の立場はこうで、私にできることはこうで、私が目指すところはこうですと提示をした上で、そこにみんなの声が加わるように、力を貸してくださいと、もっと私に教えてくださいと、みなさんと一緒に勉強させてくださいと訴えて行ってきた。
2年間、玖珠で講師として務めて、やっといま、少しの希望と自信が湧いてきたと感じている。真心で臨んでいけば必ず受け入れてもらえるし、一人の力では出来っこない夢のような出来事でも一人、二人、三人と、その力が集まれば、「何か」が出来るかもしれないという希望の色が濃くなる。体調を崩して寝込んだりした時、「お米」や「しょうが」などが届けられた。その愛情で病気を乗り越えることができたと思う。
玖珠における活動はまだまだ浅く、広がりも小さい。どこにたどりつけるか、どういう成果が生み出せるかも未知数だ。だけど、そういう不安は振り払って、まだしばらくは元気よくこの一本道を歩み続けたいと思っている。