「アジア芸術家交流展―京都からの出発」が6月4日から30日まで、京都市中京区の京都市立芸術大学ギャラリーアクアで開催される(同実行委など主催)。アジアの芸術文化は、各国の伝統に育まれ、かつ多様に展開してきた成果がある。同展では韓国、日本、中国、タイ、インドの5カ国計24人の作家が作品を発表し、アジアの芸術文化交流を深める。同展展示企画コーディネーターの山本緑さんに文章を寄せてもらった。
京都で学んだ韓国の権相仁(クォン・サンイン)は、過去のインスタレーションの作品を経て、近年は韓国の伝統的な白磁を現代陶芸に再生している。また、現在も京都で活動を続ける沈明姫(シム・ミョンヒ)は、かつて東アジアに共通し、その後途絶えた技法を再現することで、漆造形に新境地を開いた。同じく京都在住の裵相順(ペ・サンスン)は、木炭・ジェッソ・ベルベットといった素材を用い、モノクロームの画面でアジア特有の密着した関係性を表現する。同様に、今回釜山から参加する尹永華(ユン・ヨンファ)と河義秀(ハ・ウィス)においても、写真や版画に絵具を用い、モノクロームに近い色彩で画面を構成する。それは東洋画の李旻漢(イ・ミンハン)の墨による風景画とともに、中国に誕生した水墨画の伝統ともつながっていく。
一方で李建義(イ・コンウィ)は韓国の伝統工芸から現代美術まで幅広く用いられる韓紙に複合技法を用いて絵画表現を行う。
日本からは、例えば浅野均と畠中光享は、前者が中国、後者がインドの芸術文化に深く入り込むことで、共に現代の日本画において失われつつあった線を見出し、独自の表現を追求している。
また英ゆう、そしてローチャン由理子は前者がタイ、後者がインドに身を置き生活することで、アジアの芸術文化に根ざしたアイデンティティーを模索する。長く沖縄に居住した日下部雅生は、染での表現を通じて、台湾から中国大陸、ひいては東南アジアにつながる琉球海洋文化圏における自身のルーツを探ってきた。また福本双紅は中国・韓国・日本が共有する白磁の美意識から、日本特有の情緒を引き出すことに成功してきた。
中国の苗彤と翟建群は共に京都で日本画を学んだが、前者が、描く対象を心に抱き具現化する、という日本画の精神を岩彩画で表現しようと試みる一方で、後者はその精神と日本画のタッチを水墨画で自然に表す。
今回、二人に加えて上海から参加する賀蘭山は、現代風俗を水墨画で描く。また景徳鎮とアメリカで陶磁造形を学んだ陳光輝の作品からは、中国の現代工芸の最先端を窺い知ることができる。
タイのアモーンテップ・マハマートは、版画作品においてタイの自と人間が共生するイメージを表す。近年、日本と韓国でも積極的に作品発表を続けているユパ・マハマートは、同じく版画で時に天然の色彩を用い、タイの今を生きる人々の思いや願い紡ぎ、コンセプチュアルに表現する。その作品は日本の英ゆうにもインスピレーションを与えてきた。
インドからはキングシュク・サルカールとラシュミー・バグチ・サルカールが、ともに京都で学んだ日本画と水墨画から、主にその材料とイメージを絵画表現に積極的に活用している。
同展は、京都から出発し、韓国・中国・タイ・インドの芸術家たちがつながって行くことで、各国の芸術文化固有の文脈が広がりを見せる。その広がりを互いに理解し共有することで生まれる未来の可能性を期待しつつ、作品を見て彼らの言葉に耳を傾けよう。
■アジア芸術家交流展―京都からの出発■
日時:6月4日~6月30日
場所:京芸ギャラリーアクア
料金:無料
電話:075・334・2204
※9月に釜山で巡回展あり