詩を通した日韓交流を行っている前橋朗読研究会「BREATH」(群馬県前橋市、遠藤敦司代表)に、韓国の詩人・鄭浩承さんから東日本大震災の被災者を悼む詩「日本よ、泣かないでください」が送られた。遠藤敦司氏に文章を寄せてもらった。
韓国のベストセラー詩人、鄭浩承氏は、今回の日本の大災害を知り、「日本よ、泣かないでください」という詩を発表。その作品を前橋朗読研究会「BREATH」(会員8名)に翻訳者・林容澤氏の訳で送ってくれた。なぜこうした交流が生まれたのか そのきっかけは、地元のアナウンサーや演劇人を中心に結成、すでに18年目を迎えている当会の活動と深く関係がある。
今から5年前、当会主催で第一回「日韓『詩』の叙情を探る」(萩原朔太郎と近現代詩をめぐって)を開催した時に鄭氏を前橋市にお呼びしたことに始まる。鄭氏を招いた理由は、日本でまだ数編しか訳されていなかった鄭氏の詩に、感銘を受けたからでもある。
韓国で前橋市出身の近代日本を代表する詩人、萩原朔太郎の詩集が初めて翻訳出版されていることも知った。その翻訳者をお呼びしようと思ったのだ。林容澤氏(仁荷大学校教授)がその人だ。日本の詩人、八木幹夫氏の参加もお願いした。八木氏は日本現代詩人会の理事長でもある。
それから4年、その間に当朗読会員5名を連れ、韓国の仁荷大学校、ソウルの同徳女子大学校で、日本語を学ぶ学生たちを対象に夏目漱石、高村光太郎、萩原朔太郎の作品を朗読する交流も実現した。林容澤氏の尽力によるものだった。そして2010年、日韓併合100年目という痛恨の歴史を検証しようと、第二回目の日韓文化交流を立ち上げた。基調講演には美術史家、韓永大氏を招き、当時併合に反対を唱えた日本人、柳宗悦(日本民芸館創設者)の人物像を語ってもらい、併せて鄭氏、林氏、八木氏を交えて日韓の「詩」についての話し合いと朗読を行った。
このように当会は、音声表現を通じ、日韓の言葉の魅力、美しさ、特徴を耳で聴き取り、体感する活動を続けている。
音声言語は文字言語より先に生まれ、幾多の変遷をたどりながら今に至っている。そうした世界のさまざまな国の文化の根底にある、音声言語を比較文化交流という形で、これからも続けて行きたいと考えている。現在までに韓国をはじめ英語、フランス語、ロシア語による音声言語交流を実現させている。19日に前橋煥乎堂で第18回朗読公演を予定している。
■日本よ、泣かないでください―東日本大震災の惨事を哀悼する―■
鄭浩承作、林容澤訳
日本よ、泣かないでください
日本よ、立ち上がってください
地震で崩れた地にも花は咲き
津波で倒れた海岸にも鴎は飛びます
2011年3月11日仙台の東沖
巨大なる地震の波
凄まじい勢いで海岸を呑み込み、村を飲み下し
車と汽車をおもちゃのごとく吸い込んで、原発をも爆発させる
我が愛する父と母
懐かしい友と兄弟たち
その数万の尊い命までを一瞬に呑み込んでしまった
大地震の荒波の前で
桜咲く日本の春は忽ち消え失せたが
ああ、その黒い高波の中に東京の春は音もなく消え失せたのだが
日本よ、あなたは泣かないでください
日本よ、あなたは立ち上がってください
今世界があなたの涙を流しています
今人類はあなたの涙を拭いています
これは日本の災難ならぬ地球の災難
これは日本の不幸ならぬ世界の不幸
今こそ失ったものより残ったものを考える時です
国家の躓きを国民のさらなる踏み石とし
真の日本の力を見せる時です
我々の最も怖れることは恐怖心そのものだから
怖がることはありません
不幸だと思うことはありません
運命を愛してこそ不幸は消え去るものです
宇宙の広大さを考えてごらんなさい
宇宙の中の地球がいかにちっぽけなものなのかを
時たま神は人間にパンならぬ石ころを投げるものの
神もある人の不幸の前では呆然となる時があるものです
神は片方の門を開けずには片方の門を閉めないものだから
決して希望を捨ててはなりません
日本は寂しくないのです
日本の忍耐心は他ならぬ人類の忍耐心なのです
生と死との分かれ道でも
秩序を守り、お互いを配慮し合う姿は偉大です
崩れ落ちた道路でも信号に従い道を渡るあなたは美しいのです
一本のミネラル・ウオーターを得るために数百㍍の列をも
辞さないあなたも偉大です
あなたたちの落ち着きぶりと秩序意識
あなたたちの他人を愛し、配慮する心が
再び日本を立ち上がらせるはずだから
ビルの上に乗っかった旅客船が再び青い海へ戻り
爆発した原発が再び安全に電気を送り
あなたは以前のように地下鉄の中で日常を楽しみながら
出勤できるはずだから
日本列島よ、泣かないでください
日本列島よ、希望の力で立ち上がり、
またも国民の心と心とを繋ぎ合わせ
平和の新幹線を走らせてください