世界のドキュメンタリー映画の新作、話題作を上映する「第12回山形国際ドキュメンタリー映画祭」が、山形市内の映画館で6日から13日まで開かれた。同映画館祭に参加した門間貴志・明治学院大学准教授に報告をお願いした。
10月6日から13日まで、「世界への窓」という形容が決して誇張ではない山形国際ドキュメンタリー映画祭が、今年も山形市で開催された。「インターナショナル・コンペティション」や「アジア千波万波」という恒例企画の他にも、キューバ特集、東日本大震災関連の特別プログラムなどを加え、約240作品という布陣であった。
「アジア千波万波部門」に出品された韓国のムン・ジョンヒョン監督の『龍山』(2010)は、09年のソウル市龍山地区再開発にともなう強制立ち退きで死者が出た事件をメーンに、韓国の民衆の抵抗を振り返る力作で、奨励賞を受賞した。
一方、旧日本軍により「従軍慰安婦」にさせられた女性の、その後を追ったイ・ジュヒョン監督の『朝が来て終わる夜を見たことがない』は、残念ながら自己満足的な作品に終わった。
コマプレス制作の『東日本大震災 東北朝鮮学校の記録』は、今年の震災で被害を受けた仙台の朝鮮学校を取材したものである。日本中の同胞から寄せられる支援物資を日本人と分け合う姿は感動的である。作品としては粗削りだが、速報性という意味ではそれは大きな問題ではない。ここに映っているのは日本のマスコミが伝えない事実である。
個人的にはテレビドキュメンタリー特集に関心があったのでここに通いつめた。テレビ放送の歴史がラジオの延長上にあったため、初期のテレビドキュメンタリーの制作者にはラジオや記者出身者が多かったという。
60年代にNHKが放映した名番組『ある人生』を見たが、シリアスな問題を扱いつつもどこかユーモラスな演出が印象的であった。何よりも時代が生々しくごろりと切り取られている。日本テレビで辣腕をふるった牛山純一制作の作品も傑作ぞろいである。
土本典昭演出の『市民戦争』(1965)は、尾道市の国際マーケットの立ち退きをめぐる対決を追っている。在日の店も多いこのマーケットは市当局による強制執行で奪われる。ラストで市役所の職員を睨む朝鮮人女性の目のアップが印象的である。
TBSの萩元晴彦演出の『あなたは 』(1968)は、道行く人々にひたすら質問を投げかけるという異色作である。「一番欲しいものは?」「昨日の今頃は何を?」「祖国のために戦えるか?」「幸福とは?」。無数の回答が紹介されるがこれに対してコメントは一切ない。性別、職業、年齢の異なる人々のそれぞれの生活感、人生観が浮き彫りになる。これは今もう一度作ったら面白いだろう。
村木良彦の『ハノイ 田英夫の証言』(1967)は、北爆中の北ベトナムで取材した番組だが、アメリカに批判的だったため、当時の政権与党の圧力で田は番組を降板したと聞く。かつてのテレビはかように過激であった。この企画の白眉は何と言ってもRKB毎日放送のディレクター木村栄文の特集であった。
筑豊の炭鉱閉山を扱った『まっくら』(1973)、水俣の記録『苦海浄土』(1970)などは虚構の人物を役者に演じさせて現実に投入する手法が取られる。コミカルな演出に見えるがこの異化作用は深い。一番の怪作は九州一円の祭りを仕切るテキヤの記録『祭りばやしが聞こえる』(1975)。とにかく登場するテキヤの一人一人が劇映画の登場人物のように魅力的なのである。
興味深かったのは、日韓の大衆音楽の歴史をたどる『鳳仙花~近く遥かな歌声~』(1980)である。高木東六がソウルを歩き、李御寧が「恨(ハン)」の意味を解説し、美空ひばりが李美子を、そして金素雲が日本文化流入の歴史を語り、李恢成が歌に込められた悲哀を語る。植民地時代にすでに活躍していた人が次々に登場し、しっかりした日本語で当時を語る姿は圧巻である。