「朝鮮 木のもの100選」が、京都の高麗美術館で2月4日から3月25日まで開催される。朝鮮時代の木工品の名品を紹介する貴重な展示会だ。片山真理子・同館研究員に文章を寄せてもらった。
三方を海に囲まれ、山脈が縦断する朝鮮半島。国土の約7割が山林である土地柄、木と人々は互いに密接につながり、木の特性を活かした独自の文化が展開してきた。
朝鮮半島は、夏は高温多湿の東南風の影響で暑さが厳しく、冬は低温乾燥の大陸風が吹き寒く、年間を通じて温度、湿度の差が大きいため、さまざまな樹種の分布を見ることができる。なかでも朝鮮全域にわたって広範囲かつ身近な木は松(まつ)であり、建築資材や木工家具に活用された例が圧倒的に多く見られる朝鮮半島を代表する針葉樹だ。
その他、地域によって欅(かえで)、桐(きり)、銀杏(ぎんなん)、梨(なし)、柿(かき)などの広葉樹があり、板材として木目模様を活かすなど、美的要素を踏まえた実用品としても活用されている。
木工品の制作にあたり、木材の選定はその種類や質、量の範囲が限られた。希少な木材は得難く、その調達には、相応の労力が必要となった。思い通りの良木が都合よく偶然にして得られるものではなく、また一本の木でも、部分によって性質が異なるため、適材適所に木のどの部分をどのように使うか気を配り、木の持ち味を味わい尽くし、最大限に活かす努力がしのばれる。このような努力の跡にこそ、朝鮮の木のものに宿る人々の創意工夫とその地域性などの精神性と特徴を見ることができる。
木材は湿気が多いと膨張し、暖かく乾燥すると収縮する特性があり、朝鮮半島の室内は、夏は湿度が高く、冬は床暖房である温突(オンドル)によって暖かく乾燥する。このような環境に合わせ、木を伐採した後に長時間寝かせて樹液を取るなどの加工を行い、三年以上乾燥させ、起こるべき反りを事前に想定し、その調整を行う必要がある。
朝鮮の代表的な家具として、温突による坐式生活に適し、広く愛用されたお膳、小盤(ソバン)を例に挙げると、お皿を並べ置く天盤面に使用される樹種は、銀杏・胡桃(くるみ)・梨・桐などで、乾燥後反ることが少なく、軽いという特質がある。そして、脚材や補強のための横木には松・楓(かえで)・柳(やなぎ)・欅などの木材が用いられ、なかでも堅く引き締まった柾目を使用している。
小盤は朝鮮の生活に欠かせないアイテムであり、台所で準備した食膳は、そのまま運び出して卓として使用されるものだ。浅川巧(1891~1931年)の著書『朝鮮の膳』には人々と小盤の密接した距離感を観察した様子があるのでここに少し紹介しておきたい。
「これはよく見る光景であるが京城から元山に行く汽車の中で、間島方面へ移住する貧しく疲れ切った農夫の一家が、その馴れない長い旅の道中に、邪魔とも思わず客車内に持ち込んでいる荷物のうちには、新しいパカチなどと一緒に美しく拭きならされた膳を見うける。住み馴れた家を売り、農事における唯一の力と頼む牛を人手に渡し、親戚知人とも別れて知らない遠い国に旅立つその家庭にも、使い馴らされた膳は見捨てられないものと見える。―浅川巧『朝鮮の膳』1929年より」
このたびの展覧会では、高麗美術館が所蔵する木工作品から、朝鮮の木工品の持つさまざまな魅力に迫る。小盤とともに朝鮮を代表する家具、半閉櫃。また、木雁や木彫仮面、仏像などの彫刻や貝のきらめきを利用した螺鈿工芸、牛の角を薄く加工し、彩色を施す華角工芸など、質朴の美と華麗な装飾の世界まで、幅広く展示する。素材の持ち味を見極め、それを適材適所に活かした朝鮮の木工品。本展では、朝鮮時代の空気が宿る「木のもの」の持ち味を肌で体感してもらえる。
■朝鮮 木のもの100選
日時:2月4日~3月25日
場所:高麗美術館(京都市)
料金:一般500円
電話:075・491・1192
*2月11日午後1時30分より
夫京愛氏音楽会「伽倻琴の調べ」。
2500円。要予約。