1930年代の朝鮮・満州・内蒙古を記録した報道写真家、堀野正雄の作品を紹介する「幻のモダニスト 写真家堀野正雄の世界」、19世紀後半の東洋を記録した写真家フェリーチェ・ベアトの作品を一挙展示する「フェリーチェ・ベアトの東洋」の2つの写真展が、東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催され、好評を博している。
◆東洋のタイムカプセル◆
フェリーチェ・ベアト(1832~1909)は、朝鮮、日本、中国、インド、ビルマという19世紀後半に開国した国々のイメージを西欧世界に伝え、クリミア戦争、インド大反乱、下関戦争、辛未洋擾など東洋における国際紛争を記録した。戦場の死体を撮影した最初の写真家であり、パノラマ写真を含む建築写真や地形写真、アジア諸国の人々の肖像写真など多様な写真作品を欧米に提供した、多才な写真家の一人でもある。
1871年5~6月、ベアトは米国海軍遠征隊の公式写真師として、辛未洋擾を取材するため、滞在先の日本から朝鮮を訪れた。1871年5月16日に艦隊とともに日本を離れ、朝鮮で撮影して6月28日に上海に帰還した。ベアトはこの時、軍人乗組員の数多くの肖像写真と艦隊の写真、それに現地の風景や戦場の写真などおよそ47枚の写真を持ち帰っている。
辛未洋擾とは、ジェネラル・シャーマン号事件を発端として1871年に起きた、米国艦隊による朝鮮襲撃事件である。同年6月10日、米軍は江華島を襲撃、激しい砲撃戦の末、陸戦隊が上陸して制圧した。しかし、朝鮮軍は夜襲攻撃で奪還、米軍は敗走した。
ベアトは米軍の要請を受けて実際には敗走した戦争を勝利記念のように撮影した。大きな朝鮮旗の前に立つ米軍将校の写真である。そのような作品も含めベアトの写真は、19世紀末の東洋を記録した貴重なタイムカプセルとなっている。
◆朝鮮時代末期の風俗◆
日本の近代写真の成立と展開を語る上で欠かすことのできない、新興写真の旗手として知られる堀野正雄(1907~98)。その強烈なまでの個性に満ちあふれた作風により、写真家としての名前は知られているが、実際の活動の軌跡と評価は不十分だった。
同展は、その「幻の写真家」ともいうべき堀野正雄の仕事の全体像を明らかにすることによって、1930年代を中心とする写真史にあらたなビジョンを構築する展覧会である。
戦前・戦後に活躍した朝鮮の大舞踊家、崔承喜を撮影した「ポーズ」は、舞踊家の魅力を存分に引き出している。
また1934年以降、報道写真家としての道を歩み、1938年には朝鮮総督府鉄道局の依頼で朝鮮全土の撮影を行い、さらに満洲各地や中国大陸各地を撮影取材している。
堀野にとっては、現代的な女性美と同じように、これらの地域も「新しい時代のモチーフ」として捉えていたと考えられる。
しかしそれが、国策プロパガンダのまなざしと重なっていた限界も見えたのである。
■幻のモダニスト 写真家・堀野正雄の世界 フェリーチェ・ベアトの東洋■
日程:開催中(5月6日まで)
場所:東京都写真美術館
料金:堀野正雄展=一般700円
フェリーチェ・ベアト展=一般800円
電話:03・3280・0099