高麗美術館コレクション名品展「高麗青磁の精華―心にしみ入る翡色の輝き―」が、京都市の高麗美術館で9日から開催される。高麗青磁、朝鮮白磁などの名品約80点が展示され、朝鮮のやきものの歴史を知ることができる。山本俊介・同館研究員に文章を寄せてもらった。
◆粋を極めた翡翠の釉色と文様装飾 山本 俊介(高麗美術館研究員)◆
「やきもの」の長い歴史の中で、とりわけ東アジア圏において朝鮮では、中国と日本の陶磁に密接に関係しながら、それぞれの時代精神を反映し発展してきた。朝鮮の代表的な陶磁として、気品ある高麗青磁、清楚な朝鮮白磁、そして奔放な粉青沙器が世界に名を馳せている。なかでも高麗青磁は優美かつ精緻な色と形、高度な作陶技術により高く評価されている。
10世紀初頭、朝鮮半島に初めての統一国家として高麗王朝(918~1392)が誕生。仏教文化の風土と高貴な気風のもとに、高麗では中国陶磁の影響を受けつつも、次第にそれらを昇華し、「翡色青磁」と呼ばれる特有の翡翠色の釉色と文様装飾によって粋を極める。12世紀中葉には装飾技法がさらに深化し、独自の象嵌青磁が生まれた。
9日から開催する「高麗青磁の精華」展(9月2日まで)では、高麗美術館創設者・鄭詔文氏(1918~1989)のコレクションから高麗青磁の梅瓶や壺をはじめ様々な作品を網羅し、また朝鮮白磁なども併せて紹介することにより、朝鮮のやきものの歴史的な流れや系譜を概観する。さらには朝鮮時代の絵画のほか、家具調度など工芸分野の名品も紹介する。
高麗青磁が有する品格ある美しさと穏やかな雰囲気は、その「色彩」と「器形」「文様」「技法」などが相まって醸し出されている。
流れるようなフォルム。雲間を飛翔する鶴の群れや、水辺の柳、蒲、蓮、憩う水鳥、そして菊、牡丹、梅、竹、葡萄など瑞祥のモチーフが、繊細な象嵌技法により白と黒で描かれるが、それらはあくまでも簡素で気高く、みずみずしい高麗独自の美意識にあふれている。
古今東西、陶磁の美に魅入られた人は数多くいる。なかでも、その偏執的な愛陶家ぶりを文章に表現した作家に室生犀星(1889~1962)がいる。
あまたの陶磁を愛し、朝鮮陶磁に奇癖とも思える哀惜を寄せた高麗青磁についての随筆『陶古の女人』と、朝鮮白磁にまつわる『李朝夫人』は、その双璧をなすものと思われる。いずれも65歳を越え、陶磁に取りつかれて40年近い歳月を経た犀星の珠玉の随筆。とりわけ『陶古の女人』は、青磁の雲鶴文壺に寄せる熱烈な恋愛感情を表出している。
「 彼は夏の旅行に雲鶴青磁の壺を鞄に入れて、出かけた。それは留守のあいだも離れることが出来ないというより、永い旅行先の眼ざめに見たかったからである。 信州の家に着くと彼はそれを床の間に据え、似合うかどうかをためしたが、色も形も、高い山の明かりに素直になじんで見えた。 人間の心のこまかいはたらきに似た高麗青磁のやさしさは 」と続き、古陶の美しいもろさを女性の美になぞらえる。このあと、彼のところに一人の青年紳士が、四羽の飛び立つ鶴を描いた逸品の雲鶴青磁の梅瓶を持って現れる 。
その後の展開はぜひご一読のほどを。
近寄りがたい厳格な中国陶磁のような美ではなく、どこか繊細優美で儚いもの。今も白い鶴が千年を経た虚空を舞っているような、また牡丹や菊の花が長い歳月にいのちをつなぎ可憐に咲き続けているかのような夢幻の如き清浄な世界。
今回の「高麗青磁の精華」展を通じて、そうした美の迷路に一度迷い込んでみてはいかがだろうか。
■高麗青磁の精華 心にしみ入る翡色の輝き■
日程:6月9日~9月2日
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般500円、大高生400円
電話:075・491・1192
*7月8日と8月4日、ポギャギづくり5時間教室あり