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2012/08/31

<韓国文化>自己を探究し、世界の距離を縮める

  • 自己を探究し、世界の距離を縮める①

    ス・ドホ 1962年韓国ソウル生まれ。漢字名は徐道濩。現在ニューヨーク、ロンドン在住。ソウル大学校卒業後米国に渡り、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで絵画を、エール大学で彫刻を学ぶ。移動やそれに伴うアイデンティティーの変化をテーマに90 年代半ばより布を使った建築的作品や人型を用いた大型のインスタレーションを制作。

  • 自己を探究し、世界の距離を縮める②

    《堕落星-1/5スケール》2008-2012
    Courtesy of the artist and Lehmann Maupin Gallery,New York(c)Do Ho Suh

  • 自己を探究し、世界の距離を縮める③

                   《落下傘兵-1》2001-2003
     Collection of Danielle and David Ganek.New York(c)Do Ho Suh

  • 自己を探究し、世界の距離を縮める④

                  《ブループリント》2010
    Courtesy of the artist and Lehmann Maupin Gallery,New York(c)Do Ho Suh

 国際的に活躍するアジアのコンテンポラリーアートシーンを代表する韓流アーティスト、ス・ドホを紹介する「ス・ドホ in between」展が、広島市の広島現代美術館で開かれている。「移動と可動建築」「ひとびとの力」の2部構成で、日本で初公開となる初期作品から近作までを一挙展示する貴重な企画だ。

 同展は人・もの・情報が行き交うグローバルな時代に、異なる出自の文化の折衝、伝統と革新、個と集団、こうした間を行きつ戻りつしながら、自己を探求し、世界の距離を縮めていくス・ドホの試みを紹介している。

 ス・ドホは、ソウル大学校で東洋絵画を学んだ後、米国に渡りイェール大学で彫刻を終了する。99年、半透明の布地を使って韓国の生家をかたどった建築作品シリーズを制作する。

 家族、伝統、国などのルーツを象徴する「家」を、折りたためば移動可能な布で再構成することにより、スは移動に身を置く状況から身の回りの空間を、記憶、望郷という概念上の空間と関係づけていく。さらに生家とニューヨークのアパートが時空を超えて衝突するという空想を精密模型で再現する作品を発表している。

 繊細な技術と膨大な手作業によって出来上がるス・ドホの作品のダイナミズムは、出自である韓国の手工芸的な要素と、アジア人の気質といえる集団の団結から生みだされるパワーを携えている。

 人生において重要な時間を過ごす「家」はアイデンティティーを育む場所であり、その空間や建造物を再現することでパブリックとプライベート、遠い故郷と現在暮らす場所、記憶の地と現実の場、それらの接点と境界を問いかける。

 世界各地で精力的に活動を続けるス・ドホは、移動する現代人として、自身とはどこから来たのか、なに者か、という終わりなき問いの探求を繰り返している。

 ス・ドホは個人と集団の関係に目を向け、身体、個人空間という単位から歴史、文化、社会、国家という集合的なるものを見つめていく。

 個は集団の一要素であり、集団は個の集まりから成り立っている。無名の個は集合的な力の前では小さく、社会、国家という共同体の力や権力の大きさの比較には及ばないように思えるが、大きな力を生み出すことも個人があってこそ。個と集団のあり方は欧米とアジアの思想の比喩ともなる。

 アジア出身のス・ドホが、個と集団の関係性を人体とその集合から繊細で緊張感あふれるダイナミックな造形へと視覚化していく実践を紹介する。

 服や軍隊のIDタグなど個を特定の集団に規定するモチーフを取り上げ、個を枠付けする権力に疑いを向けながら、名もなき小さな力が、集まり手を取ることで生み出される大きな力を比喩するインスタレーションへと展開する。

 日本の同時代文化からの影響も見られ、部屋の調度や冷蔵庫の中身まで5分の1サイズで完全再現した《墜落星 1/5 スケール》(08-12 年)は日本初公開である。

 広島展に続き、「家」作品に焦点を当てたス・ドホ展が、石川県金沢市の金沢21 世紀美術館で11月23日から3月17日まで開催される。


■ス・ドホ in between■
日程:10月21日まで開催中
場所:広島市現代美術館
料金:一般1000円、大学生700円
電話:082・264・1121
*9月17日ペーパーワークショップ、10月7日ギャラリートーク