世界の音楽界で、韓国音楽家、韓国系音楽家の活躍が目立つようになった。10月に日本公演を予定している韓国人指揮者の陳允一、ギタリストの朴葵姫、韓国系米国人ピアニストのベン・キムの3人のインタビューを紹介する。
◆情熱と分かちあいの音楽を 陳 允一(チン・ユンイル、指揮者)
10月2日の木浦市立交響楽団日本公演(℡03・5610・7275)は、私や我がオーケストラが一段階飛躍する大切な契機になると期待している。今回の演奏プログラムは、韓国伝統楽器を奏でる「サムルノリ」のための協奏曲で朴範薫の「シンモドゥム」、新鋭ピアニスト金ダソルの協演でベートーベンのピアノ協奏曲第3番、そしてチャイコフスキーの交響曲第4番の構成となっている。朴の作品は、韓国音楽と西洋音楽を調和させた作品であり、愛着を持って多くの研究を重ねた曲だ。
木浦市立交響楽団の特徴は、何より団員の平均年齢が30歳未満であることだ。まだ経験が不足しているが、さまざまな練習や組織の力で克服している。演奏には、若いエネルギーと情熱が溢れているといえるだろう。
もう一つの特徴は、多様なレパートリーを演奏することだ。特に、韓国伝統音楽と西洋音楽を調和させる作業が進められている。それぞれのアイデンティティーを生かしたハーモニーを作り出す点において木浦市立交響楽団は、韓国内で類をみないのではないだろうか。
私の音楽における精神的な母体は、「情熱と分かち合い」だ。私の芸術世界を世の中と分かち合いたいと考えている。そのために、情熱を持って自らの音楽を研究し、努力している。
情熱に満ちた音楽は、人の心を動かし、世界を変えるすごいパワーを持っている。このような演奏は、聴く人々を感動させる。また、音楽を通じて、音楽が持っている美を分かち合えれば、すべての人々が理解し合うもっとも美しい世の中になるに違いないと確信している。
私は日本の作曲家、武満徹、外山雄三の作品が好きだ。そして、世界的な指揮者、小澤征爾から多くの影響を受けている。また、韓国の韓流とK-POPを愛する日本の人々に感謝している。両国は、とても多くの長所を持っている。しかし、最近、両国の間で、長所を理解し合ういいチャンスを逃しているのではと思うことがある。どんな場合でも両国の文化交流が、これからも持続し発展していくことを願っている。
◆韓日をギターでつなげたい 朴 葵姫(パク・キュヒ、ギタリスト)
私にとってギターは、一番人の声に近く、ささやいているような優しい音色の、自然な音のする楽器だ。私は韓日両国で生活しているので、両国の素晴らしさをよく知っている。だから、韓日交流が多くあってほしい。
韓国のギター界はまだマイナーな存在で、現時点では日本のギター教育やギター界のほうが盛り上がりを見せている。私は日本でギターに出会い、現在演奏活動をしているが、将来は韓国のギター界を盛り上げていけるように、韓日本をギターでつなげていけるような音楽活動ができたら幸せだ。
私が感じている、このギターという楽器の魅力的な音色、作品を世界中で届けられるような音楽家になりたい。何より、「また聴きたい!」と思っていただける演奏家になりたい。そして、ギターのような暖かくて美しい心をもつ、賢明な女性を目指したい。
10月6日の東京公演(℡03・3235・3777)は、8月にリリースした新譜「スペインの旅」に収録されている曲がメーンとなる。スペインの風景が浮かぶような、ギターの魅力が堪能いただけるスペインの名曲が入っている。
私がこれまでスペインの各地を旅してきて感じた、その土地の空気や風、波の音などの自然、街並み、人の温かさなどを曲に込めた。初めてギターを聴かれる方にも親しんでいただけると思う。
◆創造的な演奏に取り組む ベン・キム(ピアニスト)
幼少の頃、私はバックパックの中に入る小さな電子キーボードを与えられた。聞きたいものが何でも聞けて、演奏したいものが何でも演奏できるキーボードに興味を持った。その後、両親が音楽の先生を見つけてくれた。その先生は、私に素晴らしい作曲家たちについて教えてくれた。その中でもショパンは特別な存在だった。ピアノの前に座り、最初のページから最後までノクターンの楽譜を読んでいたのを覚えている。
私のルーツは韓国だが、生まれた場所と国籍は米国だ。韓国を訪れること無く過ごしてきたが、ここ数年、コンサートのために定期的に韓国を訪れ、不思議な感覚をいだいている。韓国人の両親に育てられたというシンプルな要因以上に、より深く私の血の中に根付いている“韓国性”を自覚した。おそらく米国に住む多くの移民の子ども達が同じ様に感じると思う。私は時に二つの文化の間で板ばさみになり、時に両方を楽しむことができる。
10月5日の東京公演(℡03・3235・3777)は、ドビュッシーのエチュード第2集を中心にとりあげる。ドビュッシーのエチュードは、彼の作品の中でも最高傑作のひとつだ。とても幻想的で、質感があり、そして繊細な感情を合わせもっている。“エチュード(練習曲)”という意味からかけ離れるほど素晴らしく、更に歴史的に高い評価を得ている。日本での演奏をとても楽しみにしている。
私は観客の前でピアノを演奏できることに、本当に感謝している。聴衆の耳だけでなく、心に訴えかける音楽へ、どのように創造的に変換できるか、常に自分自身に問いかけている。