「朝鮮の屏風―暮らしを彩る絵画演出―」展が、京都市北区の高麗美術館で開かれている。朝鮮時代の屏風・扇子・掛軸などの美に焦点を当てた展示会だ。片山真理子・同館研究所研究員に文章を寄せてもらった。
高麗美術館ではこれまでいくつかの屏風の修復を行ってきた。このたびは開館十周年に行った刺繍花鳥図屏風の修復で明らかとなった朝鮮の屏風の特質を踏まえ、書画の演出方法やその仕組みを紹介することとした。折り畳み、持ち運びのできる機能を持つ屏風・扇子・団扇・掛軸。利用の際には広げられ、携帯の際には小さく折り畳め、なおかつ収納、保管の意味でも優れた効力を持っている。さらには使用する材質には木材を骨組みとして、布や紙を利用し、持ち運びしやすいように軽量化にも考慮されている。そうしたことを中心に館蔵屏風の作例から、朝鮮の屏風の特質とその魅力をその他の紙芸とともに紹介する企画とした。
修復によって明らかとなった朝鮮の屏風の特質を挙げると、ひとつには小さな脚が伸び出ていること(写真・刺繍花鳥図八曲屏風)。そして、骨下地の木材には松を使用し、中央に一本、両端に二本の縦に三本の骨組みを配し、二、三本の横木が付く。おおよそカタカナの「キ」の字を四角で覆ったような組み方をとる。
そして、八曲、十曲という具合に偶数枚からなる縦長のパネルを接続する蝶番(ちょうつがい)は麻布と楮紙を併用する紙布蝶番の屏風の形式であること。以上の三点が大まかな朝鮮の屏風の特徴であることが確認できる。
日本の屏風の場合、脚はなく、骨下地は杉や桐の材を使用する。また下地の骨の組み方は細く、数多く、あたかも障子の骨組みのようなものである。また蝶番は全て紙からなる紙蝶番が主流であり、朝鮮の屏風のように紙と布を併用する方法は見当たらない。描かれる絵画の形式も一曲に一枚の完成した絵を並べて装填する押絵貼の技法が多く、日本の屏風のように数曲にまたがって大きな絵を描くことはさほど多くない(写真・山水図八曲屏風=山水の絵図を曲数ごとに分けて描いて、一隻としている)。
また、収集時には表具の形式をとられていない絵画「文字図」を近年、朝鮮古式の屏風に仕立てた作例もある(写真・文字図六曲屏風)。
儒教精神を表わす文字図は朝鮮独特の表現方法で描かれた文字の絵である。
「孝・悌・忠・信・礼・義・廉・恥」の八文字からなり、それぞれの文字の意味や史実に関係する絵が字画の一部に挿入された絵であり、文字である。本来は八枚からなるという約束があるが、当館には「廉・恥」が失われた状態で、六枚の絵として伝わっていたため、六曲の仕立てとした。脚のある、紙布蝶番の形式である。
展覧会では、軸装や額装の文字図も出品しており、掛軸にして分配され、西洋的な感覚が加味されて、額に仕立てられたものと思しきものもあり、近代から現代にかけて様々な形態で保管、鑑賞されてきた事象にも注目していただきたい。
そのほか、さまざまな分野で重宝された朝鮮の紙の展開を見る。
朝鮮の紙は堅牢で長持ちすることから、あらゆる生活用品に役立てられてきた。箪笥もそのうちのひとつに数えられるもので、必要な骨組みを木材で構成し、その内外に紙を幾重にも貼り付ける技法が取られている。前面には剪紙によるもので、文様の形に切り取った紙の上から大きな紙を押え、文様を浮き立たせている(写真・紙装二層箪笥)。
ほかに、細くした紙に縒りをかけて編んだ「紙縒(こより)」の文箱や水入、扇子、団扇、朝鮮本などもあわせて展示している。
このたびの「朝鮮の屏風―暮らしを彩る絵画演出―」では、朝鮮美術の特色を普段とはちがった角度で考察している。より深く、その魅力を堪能していただきたい。
■「朝鮮の屏風」展■
日時:開催中(2013年1月27日まで)
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般500円、大高生400円
電話:075・491・1192
*講演会「屏風から見た朝鮮と日本 正倉院の屏風と新羅・百済の宝物」。2013年1月12日午後1時30分、同館で。講師は西川明彦・宮内庁正倉院事務所保存科学室長、聴講料1000円(入館料含む)。