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2013/01/01

<韓国文化>世界無形文化遺産・アリラン、記録保存館を設立へ

  • 世界無形文化遺産・アリラン、記録保存館を設立へ①

    「アリラン」保存のためのテレビ番組で各地のアリランを歌う女性歌手たち

  • 世界無形文化遺産・アリラン、記録保存館を設立へ②

       歌詞の一部が消された「新アリラン」の楽譜と歌詞(※図2)

  • 世界無形文化遺産・アリラン、記録保存館を設立へ③

         アリランを初めて採譜したハルバートの楽譜(※図1)

  • 世界無形文化遺産・アリラン、記録保存館を設立へ④

                李 喆雨・コリア音楽研究所所長

 昨年12月5日、パリで開かれた第7回国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界無形文化遺産委員会で、伝統民謡「アリラン」が世界無形文化遺産に登録された。韓国では、宗廟祭礼と宗廟礼楽、パンソリ、処容舞(宮廷での舞楽)、チュルタギ(伝統的な綱渡り)、テッキョン(伝統武芸)などがすでに登録されており、今回が15件目の登録だ。同制度は2003年第32回ユネスコ総会において採択されたもので、日本の歌舞伎、中国の書芸、スペインのフラメンコなど、現在まで約200余件が世界中から登録されている。

 庶民の喜怒哀楽を歌った韓国民謡「アリラン」が、いまや世界の無形文化遺産になったとの一大慶事に韓国中が沸いている。

 一般的には、登録された世界無形文化遺産には二つのタイプがあって、一つは、“アンコールワット”や“高句麗壁画古墳”のように、それ自体を保護するための指定や助成といった必要のある場合と、民謡“アリラン”のように日頃は空気のように当たり前に接しているものが実は世界的にも大変貴重なもので、我々がまず認識を新たにし再評価しなければならないという場合である。

 こうした状況を受け韓国文化庁は、早くも2013年から5年間かけて、336億ウォン(約25億6000万円)を投じ、アリランのアーカイブ(記録保存館)構築、アリランの常設・企画展開催、学術調査・研究の支援、アリランをテーマとする地方自治体のフェスティバル後援などを行うと発表した。

 文化庁は来年上半期に『無形文化遺産の保全及び振興に関する法律』を制定し、今年9月に全羅北道全州市にオープン予定のアーカイブ「国立無形遺産院」を開設、国内外のアリラン資料を広く収集し、研究者の伝承団体を支援し、国民にアリランに関する情報も順次提供する予定である。そして、“アリラン”をテーマにした海外企画公演も将来的には先進国を含めた各国で年2~3回開催することも予定している。4月には日本で公演が開催される。

 民謡「アリラン」は、わが民族の代表的な民謡であるが、広義に捉えると「アリラン」とは民族文化の象徴として、精神文化のルーツとして伝わっている。

 1896年、民謡「アリラン」を初めて五線譜に採譜したことで知られているハルバート(Hulbert)は、『朝鮮留記』のなかで「……朝鮮人は歌わずには我慢できない(人々)で鳥のように歌っている…。朝鮮人にとってアリランは米だ、アリランは米だ!」と書いている(※図1)。

 「アリラン」は歌という存在を越えて生活になくてはならないものだということを早くも指摘している。

 アリランにまつわる伝説も俗に「アリラン100説」といわれるほど多いが、定説はない。

 古代に伝わるアリナ説は、阿利(アリ/長い)那(ナ/水)ということで長江を意味したことから“アリナ”が時代とともに“アリラン”に変化したという説や、李朝時代、“リラン”という若者が非業の最期を遂げ、人々が悲しみの余り“あーリラン”といったのがアリランになったという説や、密陽地方に古くから伝わる「アラン」という孝行娘の伝説など数多く伝わっている。

 この密陽「アラン」伝説については古賀政男が1932年、雑誌「改造」の12月号に”アリランの唄-朝鮮民謡について“という文中で言及している。その文章の冒頭では「朝鮮は私の第二の故郷です。……朝鮮民謡によって育てられてきた私が、音楽に親しんだのも作曲に興味を覚えたのも朝鮮民謡の旋律の美しさからです…」といっている。

 70年代“演歌の源流は韓国だ”ということが李成愛のレコードのキャッチフレーズで話題になったことがあったが、おそらくこの古賀さんの文章からの発想と思われる。

 アリランのメロディーは約100種、歌詞にいたっては3000種を越えるといわれている。全国に分布している「アリラン」は口伝であるため決まった形式はなく、時代的な差もあるが、庶民が歌う土俗的な「アリラン」とソリクン(歌手)によって歌われる通俗的な民謡「アリラン」に分けると比較的わかりやすく、通俗的な「アリラン」は地域的なメロディーの特徴があり、音階的に分類することによって、京畿謡、南道謡、西道謡、東部謡、済州道謡、と全国的に分類することができる。

 京畿謡(ソウル)の代表的アリランが全国的に最もよく歌われている「本調アリラン」である。この「本調アリラン」誕生のきっかけになったのが、後に幻の名画といわれる無声映画「アリラン」である。この映画は、ソウル鍾路の団成社という映画館で1926年10月1日封切りし、2年間もロングラン上映を行い、その後地方の全ての映画館で上映され、日本でも上映したが反日的ということで、以後禁止された。

 この映画の主題歌として羅雲奎が作詞し、団成社音楽隊の金永煥が作曲し、「新アリラン」として発売した。この「新アリラン」を発売したとき、5番までを発売しているが、その中で
 「アリラン アリラン アラリオ アリラン峠を越えていく
 たたかい たたかい だめなら
 この世に火をつけて 燃やしてしまえ」
 という歌詞が不穏だということで黒く消されたレコードを発売せざるを得なかった(※図2)。

 03年には、同映画のリメーク版が作られ、話題を呼んだ。