韓国と日本の歴史を考える演劇『国語の時間』が、22日から東京・高円寺の座・高円寺で上演される。1940年代、大日本帝国の統治下にあった京城(現在のソウル)の小学校を舞台に、韓国人でありながら、日本語を「国語」として教える教師たちの姿を描いた群像劇で、韓国の著名な詩人・文炳蘭の「植民地の国語の時間」を題材に、劇作家の小里清が書き上げた意欲作だ。
文炳蘭は1935年、全羅南道生まれの詩人、光州市の朝鮮大学校国文科名誉教授。同大卒業後、「現代文学」などに詩を発表して文壇デビュー。80年の光州事件を経験し、民主化運動に尽力した。
「植民地の国語の時間」は、植民地時代に小学校生活を過ごし、学校で理由がわからないまま日本語を教わった経験を詩にしたものだ。
「どうして私はそこで恥じいらなくてはならぬのか おお悲しき国語の時間よ」(文炳蘭)
この詩に感銘を受けた劇作家の小里清は、3年以上の年月をかけてこの戯曲を書き上げた。
「作家として活動する一方、在日外国人のための日本語学校の教師として、日本語を教えていたが、言葉を教えることは同化につながるということを実感した。同化の裏返しは差別でもある。差別と同化の問題を改めて問い直すことで、日韓の未来を考えたいと思った。国籍やイデオロギーを乗り越える人間のあり様を伝えたい」と話す。
演出を担当するのは、劇団「風琴工房」主宰者の詩森ろば。これまでもサハリン残留韓国人の問題をテーマにした『記憶、あるいは辺境』を上演するなど、歴史をテーマにした作品を作り上げてきた。
「作家が提示した同化と差別の問題を、どう表現していくか、演出家としての力量と経験が問われる思いで取り組んでいる。同化とは何か、それに対する私の違和感も表現している。将来は韓国の俳優と芝居を作ってみたい」と話す。
映画『パッチギ!LOVE&PEACE』で在日女性の役を好演した中村ゆりは、「植民地時代に、心の葛藤を抱えながらも日本語を子どもたちに教えざるを得ない女性教師の役なので、当時の時代背景などを学びながら役作りに挑んでいる」と話した。
さらに、「この作品で描かれるような負の歴史が両国にあったことは残念だが、両国の人々がその歴史を知った上で良い関係を作っていこうと努力すれば、交流が深まり友好関係が作られるのではないか。そういう思いで役に臨んでいる」と述べた。
朝鮮総督府の役人を演じる加藤虎ノ介は、「複雑な立場に置かれながら生き抜こうとする男の役だ。自分を隠して生きていくとは、どういうことなのか、自分を見失ってしまう人間とは何か、それを見てほしい」と話す。
ペクチョンという虐げられた身分を生きる韓国人を演じる松田洋治は、「社会の末端で生きる人間の苦しみ、悲しみを観客に伝えたい。支配と抵抗の問題は、いまも世界で起きている。そういうグローバルな視点でこの芝居に接してもらえればと思う。韓国との演劇交流は徐々に増えているが、個人レベルの交流がより増えて、相互理解につながればと願っている」と強調する。
■ストーリー■
1940年夏、京城市のある小学校。教員のほとんどは日本人だが、日本名を名乗り、日本語で授業を行う韓国人教師もわずかだがいる。夏休みに入り、彼らは子どもたちの両親や祖父母に創氏改名(韓国人に日本風の「氏」を作らせ、日本風の「名」に改めさせる政策」の申請を促すため、家庭訪問を行わなくてはならない。
ある日、朝鮮総督府学務局の官吏が学校を訪ねてくる。校内で発生した日本の植民地支配を糾弾するハングルの落書きを調べるためだ。しかし、その官吏も韓国人だった。愛国と売国のはざまで生きる韓国人の悲喜劇を描き出す。
■『国語の時間』■
日程:22~28日
場所:在・高円寺1(東京都杉並区)
料金:3500円
電話:03・5446・5870