韓国で昨年、観客動員1000万人を超える大ヒットを記録した映画『王になった男』が、日本で公開中だ。朝鮮王朝の第15代国王・光海君とその身代わりを通して、民衆のために尽くす為政者とは何かを訴えた作品で、劇中に登場する朝鮮時代の料理が、物語の重要な役割を果たしている。料理研究家の高根恵子さんに寄稿してもらった。
◆宮中で愛された粥料理 高根 恵子(料理研究家)◆
韓国映画の歴史を変えた!といわれる大ヒットとなった映画『王になった男』を観た。暗殺の危機に瀕した暴君・光海君とその影武者として雇われた道化師が入れ替わり過ごした15日間を描いた宮廷歴史大作である。演じるキャストもストーリー展開も興味深く、私が旅行で訪れた事のある古宮(景福宮や昌徳宮)で撮影されたであろうシーンも多くあっという間に上映時間は終わった。
宮廷での生活を描いた作品なのだが、登場する料理の中で最も印象的なのが「小豆粥」。もちろん宮中での代表的な食事形態「水刺床(スラサン)」五汁十二菜が丸いお膳を埋め尽くすように登場するシーンもある。しかし今回映画の中で実に柔らかく人の気持を揺り動かし、不思議な魅力を持つものとして、いくつかの場面で「小豆粥」が食べられる。
実際、宮中飲食の歴史の中でも粥は朝早く、まだ身支度を整える前に食べていたという。日本での粥はどちらかというと病気治療の回復食や離乳食などの白粥がすぐ浮かぶが、韓国料理での粥は実にバラエティーに富んだ物である。米は充分に吸水させた物をそのまま炊く場合もあれば石臼(現代ではミキサー)で細かくしてから火にかける場合もある。
粥の濃度は基本全粥。米1に対して水が5の割合。何より韓国料理での粥は肉、魚貝類、野菜、きのこなど様々な食材を取り合わせて作られる。医食同源、薬食同源の考えから創意工夫がされたのだろう。骨付きの鶏肉からとったスープで炊き上げる粥はコクがあり、アワビ入りの粥は宮中でも食べられていた。高麗人参など薬効を期待する食材と共に炊いたものもある。
また、雑穀や豆類、木の実などは米と共に細かくしたり柔らかく炊き上げることで消化吸収を高めた。松の実や胡麻などと吸水させた米をミキサーにかけてゆっくり火にかけた、まるでポタージュスープの様な粥はアルコールを飲む前に食べておくとその脂肪分が胃壁を守る効果があるとされ、酒席での前菜としてメニューに取り入れている事も多い。
現代の韓国でも粥専門店は伝統的な店からチェーン展開のファストフード店まで数多くあり、朝食や昼食、軽食にとよく食べられている。
■小豆粥■
「小豆粥」は韓国の冬至(亜歳/アセ)の行事食である。冬至を越すと一つ歳を取るとして、柔らかく炊き上げすりつぶした小豆が入った粥に米粉を練り上げて丸め茹でた団子を歳の数だけ入れて食べる習わしがある。
小豆の赤い色が厄を逃れるという意味だそうで、食べるだけでなく家のあちこちに供えたりもする。
すりつぶした小豆なので見た目は日本の甘いお汁粉のようにも見える「小豆粥」だが、基本塩味である。しかし、ほっくりと柔らかく煮えた小豆のデンプンの舌触りは米と共にゆっくり炊かれた事でよりなめらかになり、口に含むとどこか懐かしくほのかに甘く感じる。
映画の中で身分の違う三名が小豆粥を口にし、それぞれの想いを胸にする。育った環境は違えども家族と共に季節の行事を過ごし歳を重ねてきた事を思い出し、自分の感情に素直になって行くのである。
■レシピ■
小豆粥
米 1カップ(160㌘)
小豆 1カップ(160㌘)
白玉粉 適量
塩 適量
①米は洗ってたっぷりの水に1時間程浸水させザルにあげる。
②あずきは洗ってかぶるぐらいの水と共に火にかけ、沸いたら湯を捨てる。新しい水4~5カップを入れて再び火にかけて沸いたら火を弱めて一時間程柔らかくなるまで煮る。
③小豆が柔らかく煮えたらすりこぎやマッシャーなどで小豆をつぶし、水2カップ程を加え良く混ぜてザルで漉して小豆の皮と汁とに分ける。
④漉した汁はしばらく静かに置いて上澄み部分を鍋にあけて1の米を入れて始めは強火、沸いたら弱火にして柔らかく粥を炊く。
⑤白玉粉に一つまみの塩と水を少しずつ加えて、耳たぶくらいの固さに練りあげる。沸騰した湯に入れて浮いてきたら水にとる。
⑥柔らかく炊けた粥に④で残ったあんを入れて焦がさないように良く混ぜながら塩で調味する。(薄味のほうが小豆の味わいが引き立ちます)
⑦茹で上げた白玉団子を入れてあたたまったら器に盛る。
☆市販のさらしあんを使っても良いでしょう。好みで甘い味付けというのも美味しいです。