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2013/04/05

<韓国文化>"無技巧の技巧"の美

  •                華角箱(19世紀後半)

  •                飴釉面取瓶(19世紀)

 高麗美術館コレクション名品展「朝鮮のやきものと木工芸―日本の『民芸』との関わり―」が、6日から高麗美術館(京都市北区)で始まる。同展の見どころについて、李須恵・同館研究員に寄稿してもらった。

◆「節用の美」「自然の美」を知る 李 須恵(イ・スヘ、高麗美術館研究員)◆

 「朝鮮を旅する人は、赤茶けた山河の間に、白衣の人がゆっくり動く光景を沿道に見るであろう。李朝白磁は、つまりあの白衣の鮮人(ママ)である」。これは、1932年に出版された倉橋藤治郎著『陶器図録 李朝白磁』の一文である。そして1944年の田中豊太郎著『李朝陶磁譜』は、その特質を「奔放の力」「淋しい静けさ」「虚偽や虚飾のない器」とし、1930~40年代に好まれた朝鮮陶磁の性格を端的に伝えている。

 19世紀半ば以降、西欧列強を筆頭に万国博覧会や共進会等を通じて人は外国の文物を知り、技巧的で華美な商業的工芸品が流通し始めた。朝鮮では近代的な機械生産体制が本格的に導入され、手工業が急速に衰退する。ついに李王家は、朝鮮王朝の伝統である広州官窯の高級磁器ではなく、西洋や日本製の輸入陶磁を選択するに至った。

 一方、朝鮮王朝では14世紀末の建国当初から性理学(儒教)が社会の基軸となり、その枠組みのなかで固有文化を保持したため、民衆にとって「現在」は「伝統」の延長線上にあった。その性質は、朝鮮時代の工芸が孤高な造形性を湛える傍ら、多様性に乏しく、技を競うような精彩さに欠ける最大の原因ともなったが、ただ直向きに作り続ける精神性は眼の肥えた者の心をつかみ、彼らをして「無技巧の技巧」と評された。

 「粗い砂目がそのままで、膳や卓が傷つき、器を洗っても汚れはしっかりとれず、床に置けばたちまちひっくり返ってしまう」。朝鮮後期の著名な儒学者、朴齊家(1750~1805)の残した言葉である。殊に地方で民間用に大量生産されたものは朴齊家の表現にぴたりと当てはまる。器壁が分厚いためにかなりの重量があり、釉掛けが不十分で、もはや使用者に選択の余地は残されていない。「無技巧の技巧」には、「眼」による選択が叶わない民衆の営みが息づいている。

 時代の流れとともに向上し続けてきた工芸技術は、朝鮮建国とともに「華美」から「節用」へと転じた。「節用」とは、無駄をそぎ落とし、真に必要なときにこそ財物を扱うという精神を指す。小事にこだわらず、節用に生きるという教えは「無技巧の技巧」という評価を生み出した要因の一つといえる。特に17世紀後半から18世紀にかけては、座辺の文物に性理学的な世界観を投影した「文房清玩」の風潮が文人を中心に浸透し、心に静謐をもたらす陶磁や木工家具が多く作られた。人工的な「工芸」ではなく、人の手で作られる「節用の形」こそは、文人社会が長らく目指したものであり、やがて民衆の雑器にみる完成への無関心や無計画性が、朝鮮の陶磁や木工家具の性格を位置づける「自然の美」の源泉となったといえる。

 「自分にとって新しく見出された喜びの他の一つを茲に書き添えよう。それは磁器に現はされた型状美(shape)だ。之は全く朝鮮の陶器から暗示を得た新しい驚愕だ」。宗教哲学者で、民芸運動創始者である柳宗悦(1889~1961)の言葉は、長い伝統のなかで築かれた朝鮮における工芸文化の帰着点を直観的に言い当てている。

 「民芸」は、柳や陶芸家の河井寬次郎、濱田庄司が1925年に誕生した。彼らは、民衆の使う道具こそ「自然の美」であると確信した。その前年の1924年、柳は京城(現ソウル)の景福宮内に「朝鮮民族美術館」を設立した。柳は朝鮮工芸に関心を寄せるばかりでなく、1919年の三・一独立運動を機に、不条理な立場にある朝鮮に深く同情し、果敢に異議を唱えていく。「私は失はれようとしている藝術の價値と、その未來とを擁護しようとして起ったのである。朝鮮民族美術館の計畫は、此理想を具象化しようとする私の努力である」。

 柳が朝鮮民族美術館を設立した理由は、正しい工芸とは何か、美とは何かということを、朝鮮工芸を通じて多くの人に知ってもらいたい一心による。高麗美術館設立者の鄭詔文が抱いた想いもこれに通じ、ものを正しく観ることで、人とものの関係を再構築するという共通の理念が垣間見られる。

 朝鮮工芸に対する「無技巧の技巧」「自然の美」、そして「型状美」という形容が、決して、ものだけに向けられた言葉ではないことに、私たちは気づくはずである。


日程:4月6日~6月2日
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般500円、大高生400円
電話:075・491・1192
 *4月27日と5月11日に「"李朝と民芸の心に触れる"春の鑑賞会と韓国伝統茶」、5月17~18日に「キズモノ・レアモノミニ古本市」あり。