コレクション名品展「朝鮮の絵画と仏教美術」が、京都市の高麗美術館で開催中だ。高麗時代の仏教儀式具、そして統一新羅・高麗・朝鮮時代の仏像と高麗時代の青磁もあわせて紹介する展示会だ。同館研究所研究員の片山真理子さんに、文章を寄せてもらった。
◆廃れることなく信仰された仏教 片山真理子(高麗美術館研究所研究員)◆
朝鮮半島において最も仏教が盛んだった高麗時代には荘厳具としての美術工芸が幅広く展開しており、本展においては金工品にその代表作例をみることができる。
特に「青銅製銀入絲鳳凰文香垸(せいどうせいぎんにゅうしほうおうもんこうかん)」は、青銅に四字の梵字(ぼんじ)と鳳凰の文様が銀象嵌された瀟洒で気品ある逸品である。
仏前で献香するための儀式具で、身部の口縁に幅広い平たい鍔が付き、安定した台部のシルエットが特徴的だ。台座には陰刻で「大定四年丁卯八月白月庵香垸棟梁玄旭」の銘が刻まれており、中国・金の年号である大定四年、すなわち1164年の制作であることが60数例確認できる朝鮮半島の香垸中、銘文が確認できる最古の事例であることを強調しておきたいと思う。
その他、青銅瓢形水瓶や青銅蓋付水注からも高麗時代の仏教儀式具の水準の高さをうかがうことができる。そして同時代の高麗青磁の名品も併せて展示している。
一般的に朝鮮時代に台頭してきた儒教に押され、仏教は衰退するといわれているが、現在確認できる仏画や仏像の存在からは決して衰えたとはいえない。
隆慶三年銘(1569年)が確認できる朱色の麻布に描かれた「熾盛光如来降臨図」は東寺伝来の経緯を持った由緒ある掛幅だ。熾盛光仏は牛車に坐する如来を指し、敦煌莫高窟の壁画などの唐代の仏画にわずかに数例確認できるもので、北極星を象る天体で唯一不同の軸星である。
その周りには十二宮、二十八宿、北斗七星等も描かれており、壮大な宇宙のイメージが朝鮮半島中期に展開したことが判明する貴重かつ希少な作例である。また、朝鮮時代の仏像で年代が特定できるものに「木造漆箔阿弥陀三尊仏龕(もくぞうしつあみださんぞんぶつがん)」がある。
八角形の木造殿閣型(でんがくがた)で、持ち運び、つまり移動を前提に制作された阿弥陀三尊が収まった仏龕である。阿弥陀像の胎内物調査によって発見された造像発願文より康熙二十八年(1689年)に色難という僧侶が代表となって制作されたものとわかった。
色難とは全羅南道地域で活躍した仏師であることも確かのようです。ほかに統一新羅の鉄仏や金銅仏、朝鮮時代の小さな石仏も併せてご覧いただける機会となっている。朝鮮の絵画と仏教美術からその時代に思いを馳せてみてはいかがだろう。
■朝鮮の絵画と仏教美術■
日程:開催中(8月11日まで)
場所:高麗美術館(京都市)
料金:一般500円、大高生400円
電話:075・491・1192
*6月29日と7月20日午後2時より講演会、8月3日午後2時よりワークショップあり