◆パルチザン、軍人反乱事件 ◆
韓国映画におけるタブーへの挑戦は、なにもセクシュアリティーへの関心だけに終始してきたわけではない。広くくくっていえば、この挑戦は、近現代史を従来とは異なった角度から見つめ直すという大きな作業の一環をなしている。
タブーへの挑戦が、社会の暗部や恥部とされてきた個所に焦点を絞りだすと、映画は不正腐敗の告発や事実の暴露、そして世論の喚起といった役割を担うようになる。
それだけにこの挑戦には、権力側や既得権益層からの有形無形の圧力が加わりがちである。企画段階から反対論に押し潰され、たとえ完成にこぎつけたとしても、陽の目をみることなく葬り去られることも希ではない。にもかかわらず韓国映画人の粘り強い努力によって、優れた作品が数多く生み出されてきた。
まず、パルチザンに加わった北朝鮮の従軍記者が、掃討部隊に追いつめられ降伏するまでを描いた『南部軍』(1990年)をとりあげたい。これをソウルの映画館で観たときには、私も心底驚いた。周囲の観客の反応はまちまちだったが、なかにはラブ・ロマンスに涙している女性客もいた。
つぎに、軍人政権時代に極秘とされてきた反乱事件を、『シルミド』(既述)として映画化したのが2003年。金日成暗殺計画のもと、実尾島で猛烈な訓練を受けてきた若者たちだが、計画は実施直前に中止となる。部隊の存在までをも「消去」しようとする権力の身勝手に激怒した彼らが、実力行使に訴えたのがこの事件である。
時代の変化が可能にした題材とはいえ、韓国軍部の一大不祥事をとりあげ、しかも商業ベースに乗せた康祐碩監督の手腕には脱帽せざるを得ない。
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