◆児童虐待、外国人労働者問題 ◆
『もうひとつの約束』(14年)という映画がある。労働災害をめぐる、被害者と企業の攻防を描いた告発劇である。サムスン電子の女子従業員だったファン・ユンミが白血病を発病し、22歳の若さで死亡する。遺族の訴えに対して、行政も企業も、発病と業務との因果関係を頑として認めない。
ユンミの父親、ファン・サンギが、「天下のサムスン」を相手に、孤独な闘いを始める。脅迫と懐柔、原告団の切り崩しなどなどにもめげず、ついに勝訴を手にする。
映画化は、外圧や内部葛藤をのりこえての苦難の所産だった。監督のキム・テキュン、主演のパク・チョルミン、そして支援者たちの固いチームワークが生んだ成果である。そしてなによりも、サムスンに勝訴するということが、奇跡のような出来事だった。
しかしこの映画が胸を打つのは、サムスンという巨大権力に挑戦した庶民の勇気だけではない。この映画には、もうひとつ重要なメッセージがある。それは労災問題が、世界的な広がりをもつものだという認識だ。公害を海外にたれ流し、貧しい国々の労働者に災害を押し付けてきた先進工業諸国の専横には、厳しい批判と監視を怠ってはならない。
つぎに、隔離された組織のなかで、支配者が絶対的な権力をほしいままにし、抵抗力の弱いものたちを餌食にしてしまう事例をとりあげよう。
『トガニ 幼き瞳の告発』(11年)は、障害児童たちの学校での、校長らによって繰り広げられた児童虐待を映画化したものである。地方都市の学校の事件が告発され、その実体が明らかになるにつれて、地域社会有力者相互のなれ合いばかりか、ついには法曹界全体の腐敗構造までがあぶりだされる。監督はファン・トンヒョク、主演はコン・ユとチョン・ユミである。
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