◆名作・逸品が無尽蔵な分野◆
ロード・ムービーというのは、映画のジャンルとしてはかなり古典的な部類に入り、それだけにファンも多い。作中人物と一緒になって、旅行気分に浸れるのが何よりの楽しみとなるからだろう。もっとも、古い日本語に移せば道行き、旅日記、などとなるから、その原点は神話や説話の時代にまで遡れるはずである。
移動の手段や距離の問題にこだわれば、いろいろと細分類も可能になる。股旅ものや黄門さまの漫遊記、『ローハイド』などのシリーズものをどう扱うのかという厄介な問題もある。まさか、宇宙旅行までもここに含める人はいないだろうが、先々のことは分からない。とにかく、名作・逸品が無尽蔵な分野であることに異論はあるまい。
まず、その古典中の古典としていつも推奨されるのが、クラーク・ゲーブル主演の『或る夜の出来事』(1934年)である。親指を上にあげて車を止めるヒッチハイクの仕草は、「世界標準」となっている。移動手段としてバイクを登場させたことと、深南部アメリカの複雑な事情を解き明かしてくれたことで、『イージー・ライダー』(69年)も記憶に残る。
他方、『アリスの恋』(74年)では、母と息子の旅が軸となる。反抗期の子供を抱えたアリスが、故郷で歌手として自立しようとする。途中で知り合った男への愛と自立との葛藤を両立させる結末は、ぎりぎりの段階で出演者と監督との話し合いで決まったという。
比較的新しいところでは、『ネブラスカ』(2013年)をあげておきたい。偽の賞金広告を信じる父親のために、息子は車のハンドルを握る。どこまでも平ったく、地平線の続くネブラスカの農村風景のなかで、会話は少ないものの父子の愛情が交差する。
『おみおくりの作法』(13年)をここで紹介するのが適当かどうかに迷いはあるものの、STILL LIFEという原題そのままに、人生という旅の孤独を考えさせる映画である。
日本映画にも、『家族』(山田洋次監督、72年)ほか、名作は山のようにあるが、別の機会にとりあげよう。日本を舞台にした『狙った恋の落とし方』(08年)は、中国で一大北海道観光ブームを引き起こした。いわゆる珍道中ものだが、とにかく笑わせ、泣かせてくれる。移動距離の長短を問題にしなければ、オムニバス『百年恋歌』(台湾、05年)の第2話が逸品である。ビリヤード場から消えた女を追って帰営時間を逃した兵士はどうなるのか。
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