◆時空を超えた愛の交錯◆
前回は「変身」ものをとりあげた。だが、ファンタジー映画の醍醐味をさらにというのであれば、その本流は、時空を超えた二つの世界が出会うスリルに求めるべきだろう。とくにこれが、若い男女の愛に絡むときには、メロドラマとしての盛り上がりもまた格別なものとなる。
ここでは、大げさな装置は必要でない。時空を超えた愛の交信を仲立ちしてくれるのは、手紙や日記などの小道具で十分である。あるいはむしろ、この種の小道具のほうが効果的な場合が多い。
この題材で大成功を収めたのが、『イルマーレ』である。「海」というイタリア語の原意そのままに、湖畔に桟橋のように突き出た通路の先にぽつんと建つ洋風の洒落た一軒家。ドラマはこの家をめぐって展開する。李鉉升の2000年作品で、漢字題は「時超愛」。2006年にはアメリカでリメークされているが、このときの米題は『The Lake House』。
1999年12月、この家を転居することにした女(全智賢)は、ポストに転送依頼の手紙を残す。ところが、97年12月にここに引っ越してきて、彼女の依頼状を見つけたのが、もうひとりの主役で李政宰扮する青年。叔母の夫で著名な建築家が建てたこの家の住人となった彼もまた、建築家志望。
当初はお互いに誰かのいたずらと思い込むが、交信は続く。漢字タイトルそのままに、この2年という時間差を維持したまま、男女の愛は深まってゆく。はたして二人が出会うことはあるのか、どのようなトリックを用意してこの時間差をクリアするのか。スリルは満点だがこれ以上の説明はネタバレになる。
ただ、この翻案とおぼしき最近のタイ映画『すれ違いのダイアリーズ』は、前任者の残した日記に触発された新米教師を主人公としている。前後任者間というわずかな時間差のため、出会い場面が無理なく設定できている。なお、韓孝周主演の『天国への郵便配達人』(09年、李ヒョンミン監督)でも、郵便受けが交信の仲介者として重要な役割をはたす。
紛らわしいタイトルの申河均主演作、『天国からの手紙』(2003年、原題は「火星に行った男」)は、死んだ父が火星にいると信じている少女ソヒと、彼女が好きな少年スンジェの物語。スンジェは二人の思い出の川で水死する。その一年後、ソヒ宛に、彼女がかつて村で失くした靴が届く。それはなんと、火星の消印の小包だった。ハッピー・エンドとはならないものの、話の運びかたは悪くない。
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