◆老夫婦の「慎ましさと思いやり」話題に◆
韓国と日本で、ほとんど同時期にまったく同じ素材を扱ったドキュメンタリー映画が公開されて静かな感動を呼び、絶賛の的となっている。
両作品の主人公は、農山村で二人きりで暮らす老夫婦であり、互いを思いやりながら慎ましく生きる日常生活が、美しい景色のなかで淡々と綴られる。高齢の観客だけでなく、若い世代からも「究極の愛」を描いた映画として支持を得ている。
韓国の『あなた、その川を渡らないで』(2014年、陳模瑛監督)の夫、チョ・ビョンマンは、撮影開始時の2012年には98歳。妻のカン・ゲヨル(同89歳)と二人で、江原道横城郡の、古時里という村の、川辺の家で暮らす。結婚したのはゲヨルが14歳のときだが、本当の夫婦になったのは彼女が17歳のとき。その間、夫は優しく待ってくれたという。
それから70年余、二人は激動の時代を生きのび、12人の子供をもうけるが、うち3人は死亡している。妻は韓服を用意し、先にあの世に行った方がこれを死んだ子供たちに着せることにする。
この夫婦はいつも一緒に行動し、若いカップルのように愛を語りあう。四季の移り変わりのなかで、枯葉をかけあったり、雪合戦をしてみたり、まるで子供のように戯れる姿が、何とも可愛い。
夜中にひとりで屋外のトイレに行くのが怖いからと妻に頼まれれば、夫はその側で歌を唄って用足しのすむのを待ってやる。
いっぽう、日本映画『ふたりの桃源郷』(2016年、佐々木聰監督)の舞台は山口県岩国市美和町の山奥。1938年に結婚したとき、夫の田中寅夫は24歳、妻のフサコは19歳だった。戦後、寅夫が無事に南方から復員し、フサコの故郷に近い山を買い、開墾をはじめる。
1961年、寅夫たちは大阪に出て、個人タクシーを営みながら三人の娘を育てあげる。そして1979年、夫婦は山に戻り、自給自足の生活をやり直す。
静かに迫りくる「老い」に抗して、二人の山中生活はまさに「桃源郷」。しかし寅夫が心臓発作で倒れ、フサコに認知症の症状がでるようになって、夫婦は老人ホームに入居する(寅夫88歳)。それでも山への郷愁は絶ちがたく、二人は昼間だけ山で過ごす生活を続ける。
以上の二作品に共通するのは、自然に溶け込んだ夫婦愛の美しさである。しかし同時に見逃してはならないのが、二組の老夫婦がともに、多くの子供や孫に恵まれ、彼らに見守られながら、二人だけの農山村生活を送れたという点である。
つづきは本紙へ