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2017/03/24

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 第28回 マラソン・卓球・登山を描いた感動作                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 韓流シネマの散歩道 第28回 スポーツで育む「国境を越えた友情」

    植民地時代、戦地に赴いたマラソンランナーを描いた『マイウェイ 12,000キロの真実』

  • 二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

    たむら・としゆき 1941年京都生まれ。一橋大学卒。東京都立大学経済学部教授、二松学舎大学教授などを経て、現在は同大学客員教授、都立大学名誉教授。

◆スポーツで育む「国境を越えた友情」◆

 野球以外のスポーツを主題とした映画にも、名作・佳作は数多い。

 まずは、マラソンを取りあげよう。1936年のベルリン五輪で金メダルを獲得した孫基禎選手の銅像が最近、同地に建立されたという。紛糾のたねとなる例の少女とは違い、アジア人初の快挙をあげた人物像は、誰からも歓迎されることだろう。

 マラソン映画の近作『マイウェイ12,000キロの真実』(2011)は、ノモンハン事件に始まり、独ソ戦からノルマンディー上陸までと、まるで第2次大戦略史を映像化した観のある力作である。植民地下のソウルで出会った日朝二人の少年が、ランナーとして競い合い、成人してからは日本軍兵士として従軍し、シベリアからノルマンディーまでの大移動を経験する。

 二人は、反発と憎悪のうちにも友情を育みつつ、転戦を重ねる。枢軸国側の敗戦を迎えると、支配者と被支配者という立場は、敗者と勝者の関係へと逆転する。監督は姜帝圭、主演の二人のマラソン・ランナーは、張東健とオダギリ・ジョーという両国の人気俳優たち。

 さらに、母子をめぐる感動作、『マラソン』(2005)を勧めておきたい。幼児期に自閉症と診断されたまま成人した長男に、ランナーとしての才能があることを知った母親は、元マラソン選手に息子の訓練を託す。指導方針をめぐって母親とコーチは衝突をくり返すものの、結局は子供をランナーとして成功させるべく、力をあわせて奮闘する。マラソンを通じて息子に自信を持たせようとする母親と周囲との葛藤を描く、チョン・ユンチョル監督の第一作である。

 心を閉ざしたスポーツマンの話としては、蘇志燮演じる元ボクサーと、視力を失いつつも彼を愛する韓孝周の『ただ君だけ』(2011年)がある。TVドラマ「トンイ」で日本にも多くのファンをもつ韓孝周は、その後も『愛を歌う花』などの作品に恵まれ、活躍している。

 ボクシングといえば、河智苑が女ボクサーに扮する『一番街の奇跡』(2007年)が楽しめる。相手役の任昌丁も熱演。テコンドー映画『まわし蹴り』(2004年)もあわせて紹介しておこう。

 つぎに、プロレスとなると、やはり力道山。美空ひばりと共演していた『怒涛の男』(1955年)が懐かしい。薛景求と中谷美紀主演の『力道山』(2004年)が公開されてからも時間は経ったが、年配の日本人の脳裏から「大英雄」イメージは消えないだろう。


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