◆腕前の凄さ、見事さに圧倒◆
犯罪映画のなかには、犯人たちの腕前の凄さ、見事さに圧倒され、思わず感嘆してしまうものがある。なかでも興味深いのが、掏摸(スリ)や詐欺師を主人公とした作品群である。
その代表例が、フランス映画『スリ』(1960年、ロベール・ブレッソン監督)である。孤独な青年が自分の手先の器用さに気づき、スリ仲間の一員に取り込まれてゆく。このようにスリや詐欺という稼業も、個人業では限界があり、プロ集団としてのチームワークの良さが成否のカギを握る。
時代の古さとスケールの大きさでいえば、『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』(2016年)が最右翼だろう。パク・デミン監督による本作は三度目の映画化。実在の人物ではないのに、韓国でソンダルは今も大英雄だという。
それもそのはずで、丙子胡乱(1636年)により、多くの朝鮮人が清に連行され、清との戦争に投入されていた。そのうえ、清の絶対的な信頼をバックに王朝の実権を握るソン・デリョンの圧政が続き、人民の窮状は目を覆うばかりだった。
キム・ソンダルを首領とする詐欺師集団は、大同江を堰き止めれば砂金がいくらでも手に入るという話をデッチあげ、欲深いデリョンをこの餌に食いつかせる。圧政者とその背後にいる清に一泡吹かせようと知恵をしぼるソンダル一味は、民衆にとっては義賊そのものである。
『タチャ:イカサマ師』(崔東勲監督、06年)の主人公を演じるのは曺承佑。賭博の世界にも、各地に地域ボスがいて、縄張りを競っている。花札のイカサマに引っ掛かり有り金を残らず巻き上げられた曺承佑は一念発起、あるプロのイカサマ師に弟子入りして腕をみがき、本物の賭博師となって大金を手にする。金恵秀、柳海眞、白潤植、金応洙、さらには金尚昊などの助演陣が豪華だ。
主人公が現金を詰め込んだリュックを背に列車にぶらさがって逃げるとき、チャックが開いて現金が飛び散る。このシーンは往年のフランスの名作『地下室のメロディ』で、プールに隠したバッグから無情にもつぎつぎと浮かび上がる現金と、これをやむなくみつめるほかないジャン・ギャバンとアラン・ドロンという、あまりにも有名なラストをひねったものだろう。
『仁寺洞スキャンダル』(09年、パク・ヒゴン監督)は、ソウルの著名な美術品街・仁寺洞に巣食う古美術品偽作贋作集団の物語。
400年前の「壁眼図」を入手した女性美術商が、
つづきは本紙へ