◆愛のもつれと、その行方を描く◆
洪尚秀(ホン・サンス)監督の最近作が相次いで日本公開されている。『それから』(2017年)、『夜の浜辺でひとり』(17年)、『正しい日/間違えた日』(15年)、そして『クレアのカメラ』(17年)の4作である。韓国の小津安二郎と呼ばれて久しい洪尚秀だが、彼なりに独自の世界を確立しつつあるようだ。
上記4作のうち、2015年の作品は、ある出来事をさまざまな視点からながめるとどうなるかという面白みを堪能させてくれるという意味では、『三人のアンヌ』(イザベル・ユペール主演、12年)の系列に入れるべきだろう。そのイザベル・ユペールは『クレアのカメラ』にも登場する。
これら4作のすべてに金敏姫(キム・ミニ)が主役として出演し、洪尚秀のカメラは執拗に彼女を追う。小津と原節子の関係を想起せざるを得ない。いまひとつ、17年の三作品に共通するのが、妻子ある男性と独身女性のあいだの、愛のもつれとその行方という難題だ。深刻に描くこともコメディタッチで逃げることもできるこのテーマを、洪監督は台詞を削りに削った単純な会話のなかに落としこみ、静的なエピソードとしてまとめる。
評論家のなかには、夏目漱石の登場のさせ方がうまいなどの理由で『それから』を激賞する向きもあるが、私としては、『夜の浜辺でひとり』を推したい。その漱石が『それから』のなかで、フランス文学に出てくる(社会)不安は有夫姦の多さによるものと断じているのは卓見である。フランス映画にもこのテーマの名作が限りなくある。そして戦後は、アメリカ映画がお株を奪ってきた。
なかでも『アパートの鍵貸します』(1960)は、シアリアスな内容をコメディー風に仕立てたビリー・ワイルダー監督の腕前が光る。若々しいジャック・レモンとシャーリー・マクレーンの名演技も忘れがたい。
比較的新しいところでは、メリル・ストリープ主演の『恋におちて』(84年)と『マディソン郡の橋』(95年)の二作を推奨したい。相手役のロバート・デ・ニーロとクリント・イーストウッドがそれぞれに持ち味を出し、大人の愛の行く末を照らしてゆく。前者が予想通りの展開をたどるのに対し後者は、夫ある身の女と写真家の間のひとときの愛を、プラトニック・ラブかと錯覚させる不思議な作品だ。
韓国映画『男と女』(15年)の結末は、やはり前者の系列に属す。美しいヘルシンキ郊外の雪景色をバックに、男(孔劉/コン・ユ)と女(全度妍/チョン・ドヨン)は偶然に出会い、森の小屋に閉じ込められ、相手の名も知らぬまま燃えあがる。男も女も、それぞれに配偶者のあるエリートたち。いったんはそのまま別れた二人だが、
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