女性を描かせれば右に出る者がない、とうたわれてきたのが成瀬巳喜男。しかし、「女性映画」の名手・成瀬にも描ききれない、女性監督ならではの視点といったものがありそうだ。
まず、マリア・トウザニ監督の『モロッコ彼女たちの朝』(19年)を取り上げよう。カサブランカで細々とパン屋を営むアブラは、娘のワルダとの二人暮らし。その店前の路上に、臨月間近の美容師サミアが食と宿を求めてくる。
戒律が厳しいイスラム社会では、未婚の母はもちろん、その子供にも冷たい仕打ちが待っている。ワルダと目が合ったことがきっかけで、アブラはサミアを招き入れ、一晩限りの食を与える。しかし翌朝、サミアを追い出したのは冷たいと娘に責められたアブラは、ワルダと市場を探しまわり、サミアを再度招き入れ、自宅での出産を勧める。しかしサミアには、子供を養子に出す以外の選択肢はない。画面での三人の女には暖かい光が当てられるが、話の内容は暗くて重い。
似たような視線を民族紛争に求めた『サラエボの花』(06年、J・ジョバニッチ監督)は、ベルリン映画祭での金熊賞作品。ここでは、主人公エスマは娘サラとの二人暮らし。サラには、父はボスニア紛争で戦死したと教えてきたが、これに疑問を持ち始めた娘は、事実の告白を迫る。
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