◆「中野重治と朝鮮問題」を著して、寄稿 廣瀬陽一(日本学術振興会特別研究員PD)◆
在日1世の作家・金達寿(キム・ダルス)研究の第一人者、廣瀬陽一さん(日本学術振興会特別研究員PD)が新著「中野重治と朝鮮問題連帯の神話を超えて」(青弓社)を出した。金達寿とも親交があり、朝鮮や在日朝鮮人をめぐる諸問題に誠実に向き合った作家・中野重治について考察した意欲作だ。廣瀬さんに寄稿をお願いした。
私は2011年から本格的に在日の作家、金達寿の研究をはじめ、その成果を『金達寿とその時代』(16年、クレイン)と『日本の中の朝鮮 金達寿伝』(19年、クレイン)にまとめた。私は金達寿を、「日本と朝鮮、日本人と朝鮮人との関係を人間的なものにする」ことを目ざした知識人として描きだしたのだが、その過程で浮かび上がってきたのが、彼が「人生の師」と仰いだ文学者・中野重治との親密な交友関係だった。
「雨の降る品川駅」の作者として著名な中野は、日本人とコリアンの両方から朝鮮問題に真摯に取りくみ続けた稀有な日本人文学者と評されている。しかし中野と朝鮮という問題系をめぐる研究は現在まで「雨の降る品川駅」に圧倒的に集中しており、認識の変遷を総体的に究明したものはなかった。
そこで私は日本人の側から「日本と朝鮮、日本人と朝鮮人との関係を人間的なものにする」ための道筋を探るべく、敗戦後に中野が朝鮮問題にどのように取りくんで認識を深めていったか、彼の到達点と可能性を明らかにしようと試みた。その成果が本書『中野重治と朝鮮問題』である。
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