1923年9月1日に発生した関東大震災直後の混乱の中で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言飛語が飛び交い、自警団が朝鮮人を襲撃する事件が発生、香川から関東へやってきた行商団15人が、朝鮮人と疑われて虐殺された実在の事件を描いた『福田村事件』が1日、東京・テアトル新宿ほか全国公開される。門間貴志・明治学院大学文学部教授に映画評を寄せてもらった。
◆「負の記憶」を取り上げた力作 門間 貴志(明治学院大学文学部教授)◆
関東大震災の後、秋田の木工職人だった私の祖父は、生まれて初めて東京に向かった。
帝都復興のため、大工が日本各地から集められ、それでも足りず、声がかかったようだ。そこで18歳の祖父が見たのは花の都ではなく瓦礫の街だった。その祖父が「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という話を当時聞いたと語ったことがあった。高校生だった私が、それはデマだったと諭すと素直に応じたが、何十年もそうだと思っていたらしい。デマとは恐ろしいものである。
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