3000人以上の人命を瞬時に奪った米同時多発テロから1年を迎えた11日、テロの現場となったニューヨークの世界貿易センタービル跡地などで追悼式が行われた。数百人の死者を出した韓国をはじめ世界各地でも犠牲者を哀悼した。世界を震撼させた未曾有のテロの後遺症はいまだ癒されていず、米経済が陰りを見せている。だが米政府はテロとの戦争を継続中であり、次はイラクとの戦争に踏み出そうとしている。米国と同盟関係にあり、経済的にも密接に結びついている韓国で、米国の強硬姿勢や経済への影響を懸念する見方が増えている。
◆国際信頼のない力の行使疑問
韓国の有力各紙は、「9・11その後1年」のタイトルの1ページ全面をさいた連載記事で多角的にこの問題を扱ってきた。基本的にテロ反対の立場であるが、イラク戦争に踏み切ろうとする最近の一国主義的強硬姿勢にはやや厳しい見方をしている。例えば東亜日報の連載では、「米独走は行き過ぎ」との大見出しを掲げ、対イラク戦を牽制する中国、ロシア、EUの主張を大きく取り上げ、米国の一国主義に対する国際社会の警戒心が高まっていることを指摘した。
「9・11以降、米国の指導力が疑われている。ブッシュ政権が自分の思い通り国際社会を料理しようとするためだ。最近の例をみても、国連世界環境サミットに参加せず、国連を無視したままイラクのフセイン策出戦争を行おうとしている。国際的信頼の中で力を行使してこそ効果が大きいという事実を悟らなくてはならない」(韓国日報社説)という批判の声も聞かれる。
ソウルで9日開かれたアジア・欧州プレスフォーラムで、韓国の言論代表は、「韓国の韓米感情は2つの顔をもっている。米国の安保の傘のもと太陽政策を遂行できることを感謝する反面、ブッシュ政権の強硬政策がむしろ太陽政策を妨害することを憂慮している」と指摘した。
一方、米国には在米コリアンが200万人以上居住しており、ニューヨークではコリアタウンを形成し商業活動を活発に展開しているが、9・11後は外国人にとて少し居心地が悪くなっているようだ。在米科学者の李ドック氏が韓国紙への寄稿で、次のように述べている。
「最も本質的な変化は、9・11以降、米国人が外国人を見る目が違っている点だ。その目は『あなたは米国側なのか、そうではないのか』と問いただす。9・11以降、米国では市民権を申請する外国人が増えているが、これは『あなたはどちらの側なのか』の問いに『私も米国市民』と答えるためだ。米国は世界でもっとも強力な自由民主主義国家だが、最近の状況は米国側に立って見ても不安だ」
ニューヨーク人口の36%は外国が祖国の移民であり、世界一自由な都市がこれでは泣くだろう。
◆世界経済再建が急務
米テロ直後は心配されたほど世界経済に大きな影響はなかったが、今年に入って様相が変わってきた。米経済の成長が鈍化し、景気テコ入れのため史上最低水準の低金利となった。だが、エンロンなどの企業会計不正が相次いで明るみに出て、株価は急降下している。
成長エンジンと期待されたEU(欧州連合)も、ドイツが失業率10%に達するなど経済事情は厳しく、日本は12年不況から抜け出す兆しもない。辛うじて中国の快進撃をはじめ東南アジアの経済回復がみられるぐらいだ。さらにイラク戦が起これば原油価格は1バレル50㌦に跳ね上がるとの推定もあり、世界経済に大きなダメージを与えるのは必至だ。
韓国の有力経済誌「エコノミスト」は、「建設をはじめとした内需産業の成長で6%台の成長を実現できたが、これがいつまで持続するかは不確実だ。むしろ、低金利政策が不動産ブームを引き起こし、経済的不均衡を拡大させている。韓国銀行と政府でもこれを憂慮している」として、「これまで韓国経済は外的環境の不透明性の中でも比較的良好な成果をあげ国際社会から注目されてきた。だが、これからやってくる9・11テロ後の爆風をどのように突破するのかに未来がかかっている。今後数ヶ月ないし1年が韓国経済の底時からを試験する重要な時期だろう」と見ている。
毎日経済新聞は社説で、「世界経済自体を再び不況の沼に追いやるならば、(イラク)攻撃の目的さえ失うこととなる」と米に自制を促した。
いま輸出は2ケタ台の伸びを記録する好調だ。だが、最大の輸出先である米国経済が今後停滞を続けると影響は大きい。特に、原油価格高騰という事態になれば、原油のほぼ全量を輸入に依存しているだけに致命的影響をこうむらざるを得ない。この面からみても平和志向は韓国の基本だ。
◆北朝鮮攻撃は希薄
米テロ1周年後で、その行方が最も注目されるのは米国が対イラク戦争を開始するかどうかであり、韓国にとって気がかりなのは、イラク、イランとともに「悪の枢軸」と名指しされた北朝鮮への影響だ。もし、かりに米国が北朝鮮を先制攻撃すれば韓半島は戦場になることが避けられない。
そんな不安があるから韓国内では、この問題について警戒はしているが、やや楽観している。朝鮮日報の連載では、米国の対イラク強硬派と穏健派を登場させ、ともに「北朝鮮に対する軍事行動の可能性は低い」との見方をしていることを紹介した。
穏健派のスタイングバーグ・ブルッキングス研究所副所長は、「北朝鮮に対しあまり攻撃的な対応が東北アジア地域の支持を得がたいことをブッシュ政権は理解している」と指摘した。
また、強硬派のエリアン・コーエン・ジョンスホプキンス大学教授は、「北朝鮮が米国を狙って大量殺傷武器を使うなど極度に危険な行動をしない限り、軍事行動はないだろう。北の場合は南に主導的な役割を果たせる力量がある」と述べている。