14カ月におよぶ交渉の末、韓米自由貿易協定(FTA)が妥結し、国内企業は今後、米企業とボーダレスな競争を展開することになる。今回の妥結で世界最大の米市場に対する進出機会が拡大するだけに、価格、技術競争力がある自動車や自動車部品、繊維などは大きな恩恵を受ける業種に挙げられている。その一方で、米国の輸入関税がすでに撤廃、または非常に低い一部電子製品などは、それほど大きな影響はないものと予想される。業種別では、関税撤廃に対する得失の差があるが、産業全体ではFTAによる自由競争が市場拡大し、グローバル競争力強化が誘発されると期待されている。主要企業や業種別団体がFTA妥結の知らせに、ひとまず肯定的な反応を見せたのも、こうした期待からと受けとめられている。
◆自動車◆
自動車業界は交渉結果について両国間の中・長期的な効果に期待しながらも「周囲が期待するほど大きな利益はない」といった反応だ。韓国自動車産業研究所関係者は、「3000CC以下の中・小型車の関税2・5%を直ちに撤廃しても、大型車と関税が最高25%になるピックアップトラックの関税はそれぞれ 3年と5年の猶予があり、実際のFTA効果は制限的」と分析する。
排気量基準の自動車税制が5段階から3段階に変わることについては、国内企業もまったく同じ適用を受けるため、有利、不利を計算するのは難しい。ただし、特別消費税の引き下げ、あるいは撤廃となった場合、自動車価格は大きく引き下げられる見込みだ。
昨年、韓国車の対米輸出は69万3124台、金額では87億1000万㌦にのぼる。一方、米国車の輸入は5024台、1億4207万㌦に過ぎない。韓国自動車工業協会関係者は、「世界最大の米国市場への進出拡大をはじめ、対米通商関係の改善、対外信用度の向上など、直接、間接的な効果を考えれば、韓米FTA締結は韓国自動車産業の発展に寄与するだろう」と話した。
現代自動車をはじめとする国内自動車業界は、米国産日本車の迂回輸入を懸念する。現代自関係者は、「韓米FTA締結は、両国の自動車産業にとって市場機会が拡大する」と肯定的ながら、「米国産日本車の迂回輸入問題は今後も考慮しなければならない問題」と警戒を強めている。
◆電 子◆
韓国と米国間の電子製品に関しては、すでに関税のない品目が多く、関税があっても製品競争力に及ぶ影響は少なく、韓米FTA締結が電子業界に及ぼす影響は少ない見通しだ。特に半導体などのIT製品は、すでに関税を賦課しないという情報技術協定(ITA)によって米国では関税が免除されている。通常、米国に輸出される製品には、薄型テレビに5%、白物家電には1―2%の関税が適用されるが、サムスン電子やLG電子の場合、米国向けのほとんどの製品を北米自由貿易協定(NAFTA)締結国家であるメキシコの工場で生産しているため関税とは無関係だ。
サムスン電子は、北米向けテレビのほとんどをメキシコのティファナ工場で生産しており、LG電子も北米市場に供給する携帯電話、液晶・プラズマテレビ、冷蔵庫など、ほとんどの製品をメキシコ国内の3工場で生産している。
一方、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ワールプールなど、米家電メーカーの製品は、輸入関税が撤廃されれば、韓国市場への輸出が拡大する見通しだ。
◆繊 維◆
自動車と共に韓米FTAの恩恵を受ける品目に挙げられる繊維。しかし、実際にどの程度の恩恵を受けるかは未知数だ。繊維産業連合会関係者は「2000年に36億㌦に達した対米輸出額が毎年減少を続け、昨年は20億㌦ほどだった。しかし、今回のFTA締結によって、減少していた対米輸出が増加傾向に変わるターニングポイントになるだろう」と話す。
中でも30%台の高関税で輸出されていたセーターなどの化学繊維衣類の場合、もともと4%、8%台の関税率だった原糸、綿糸などに比べ、高いFTA効果が期待される。これにより、高い輸出関税の適用を受けてきた製品のうち、ヤーン・フォワード制(原糸の生産地を基準とした原産地規則)の基準を満たすものは輸出が増える見通しだ。また、ヤーン・フォワード制の適用によって原糸の国内生産が活性化すると期待される。しかし、米国が迂回輸出防止を名分に韓国の輸出業者などに対して経営情報など、さまざまな資料を要求し、各種監視活動を展開する点は不安要因となる。
◆機 械◆
機械産業は、関税や価格より技術や品質、事後管理などが重要な産業だけに、韓米FTA締結が市場に決定的な影響は及ぼすことはないと業界はみている。しかし、先端機械など輸入依存度が高い品目では技術開発の萎縮など否定的な効果も予想される。輸出面では既存の米関税率が無関税、もしくは1―2%水準のため、関税撤廃効果はわずかだが、マシニングセンター(4・2%)や水平旋盤(4・4%)などの一部品目では大きな効果があるとみられる。
輸入面では、平均輸入関税率が6・4%で米国輸出関税率(平均1・7%)より高いが、汎用品では、国内製品が価格と品質面で競争力を兼ね備えているため、関税引き下げによる大きな影響はないと予想される。また、輸入比率が高い先端装装置や部品は、2次、3次製品製造する際、関税引き下げによって原価削減効果が期待されるが、長期的には技術開発の遅れなどの弊害が懸念されている。
韓国機械産業振興会の関係者は、「関税の撤廃と韓国産機械に対する米市場の肯定的な雰囲気によってFTA締結後は一時的に輸出が活性化する見込みだ。こうした効果を倍増させるためには、米企業の投資を積極的に誘致し、輸入比率が高い業種の技術開発を促進するなどの対応が必要だ」と指摘する。
◆鉄 鋼◆
すでに2004年1月1日から、ほとんどの部分で米国との無関税を実現してきた鉄鋼業界は、FTAの影響は少ないが、需要産業の輸出増による相乗効果に期待している。
韓米間の昨年の鉄鋼貿易は254万㌧で、輸出が250万㌧を占め、輸入(4万㌧)の 60倍を超えている。金額もそれぞれ20億㌦台と4億㌦で、韓国側が約16億㌦の黒字を記録した。輸入はスクラップなどの原料がほとんど。輸出品目は熱延、冷延、メッキ、鋼管が全体の80%を占める。
しかし、業界は、今回の交渉で米通商法を改正し、FTA締結国に対しては反ダンピングの可否を別途に調査してほしいという韓国側の要求が受け入れられなかったことに失望している。昨年10月現在、韓国の鉄鋼製品が全世界で輸入規制を受けている24件のうち米国が半分の12件を占める。
◆石油化学◆
石油化学分野では、エンジニアリングプラスチックなど一部の高付加価値製品や技術集約的化学製品の輸入が増加する見込みだ。特にポリカーボネート、ポリアミド、シリコン樹脂など高付加価値製品輸入が増えるとみられる。しかし、多くの石油化学製品は、技術と品質に大差がないため、他の業種に比べ、FTAの影響は小さい。
業会関係者は、「両国が互いに製品を供給する機会が増え、貿易量が増加する可能性があるが、石油化学は生産技術が汎用化され、品質差も小さいため、大きな変化はないだろう」とみている。
しかし、製品別の関税撤廃期間などを考慮すると、企業によって明暗が分かれる見込みだ。貿易協会の分析によると、化学分野の輸入センシティブ品目は76にのぼる。昨年の韓国の対米輸出は、約10億㌦、輸入は約21億㌦で、11億㌦の赤字となっており、FTAによって赤字が拡大すると懸念されている。
◆石油精製◆
石油精製会社の多くは「ほとんど影響なし」といった反応をみせている。石油協会によると、米国は現在、韓国の石油製品に最高0・8%の関税率を適用するにとどまり、供給地域自体が異なることから、輸出拡大の余力は大きくない。輸入も米国の輸出力不足でそれほど増えないと分析されている。韓国は昨年、米国に航空機燃料、ガソリン、軽油など約30億㌦を輸出し、ナフサなど約1億4600万㌦を輸入するにとどまった。
◆造 船◆
造船はすでに船舶輸入関税がなく、韓国造船業界の競争力が非常に高いため、韓米FTAによる影響はほとんどないというのが業界の分析だ。
韓国造船工業協会関係者は、「米国沿岸の乗客、貨物輸送は、米国籍船のみを許可するという海事法令から譲歩を引き出せたのであれば、輸出の可能性もあるが、米国内の船舶発注量自体が少ないので大きな効果は期待できない」と話す。また、「造船業は関税障壁が少なく、世界のどの国と比べても韓国の競争力が優れており、韓米FTAの影響はない」と付け加えた。