自動車や電子製品から発生する廃熱を電気に変える化学素材(熱電素子)が、サムスン電子などの研究陣により開発された。研究結果は世界的な科学誌「ネイチャー」本誌とオンライン版に同時掲載されるなど、世界的にも注目を集めている。実用化されれば、素材と新・再生エネルギー分野のニュービジネスとして浮上する可能性が高い。
サムスン電子総合技術院が開発に成功した新素材は、熱を電気に変換する機能を持つもので、「セレン化インジウム」(In4Se3-x)と呼ばれる。廃熱を電気エネルギーに変換する効率を従来の7%から12%に向上させることで、商用化の可能性が広がったと、同技術院は説明している。
自動車の補助電力や冷延機関、産業用廃熱発電などに使われている従来の熱電素子は、薄膜やナノワイヤを用いており、温度差の維持が難しいという欠点があった。これに対し、セレン化インジウムは熱を電気に変換させる能力が高く、熱伝導率は低いため、発熱部と冷却部の温度差を広げることが可能だ。研究チームは、金属電子の動きを制限すれば金属が半導体に変わり、金属格子がよじれることで熱伝導度が低下して熱電性能が高まる原理を応用して新素材の開発に成功した。
同技術院の李商睦(イ・サンモク)専門研究員は「セレン化インジウムは熱の電気エネルギー変換効率が高く、熱電性能は従来の素子に比べ180%向上した」と述べ、「2種類の金属化合物で製造できるというメリットがあるので商用化の範囲が広い」と説明した。国立研究機関などで同様の研究を進めている米国や日本などでも、「発電効率が10%以上ならば、経済性を確保できる熱電素材になる」と評価されている。
現在、廃熱利用発電で最も注目されている分野は自動車産業だ。自動車は60%以上のエネルギーを熱として空気中に放出するが、GM、BMWなどの自動車メーカーはマフラーを熱電材料で覆い、廃熱を電気変換してエンジンの補助電力や車内の冷暖房に再利用する技術を開発している。さらに、焼却炉や電気炉の発電、航空宇宙用の原子力発電、体内埋め込み型医療機器の電源などと応用分野が多方面に広がることは確実だ。
すでにサムスン電子は、セレン化インジウムの実用化に関する研究を進めている。一例として、プリンターの廃熱を電気変換して待機モード用電源に活用したり、パソコンの廃熱をエネルギーとして再利用する技術などの試験を行っている。太陽電池や無線モバイル機器に応用することも検討中で、系列社の協力を得て応用範囲を拡大していく方針だ。
この研究は、サムスン電子総合技術院が材料開発を行い、成均館大学が結晶成長、浦項工科大学が理論計算分野をそれぞれ担当した。米ラトガース大学の教授も理論分析に参加した。
■セレン化インジウムとは
セレン(Se、原子番号34)とインジウム(In、同49)からなる金属化合物。熱電素材の効率は、熱電素材の効率は、熱と電気の変換効率を示す熱電性能指数「ZT」で示され、常温で冷却する材料はZTが1・0、中温で発電する材料は0・8だが、セレン化インジウムは1・48と、格段に高い。