韓国鉄鋼最大手のポスコが、充電可能な2次電池の原料となるリチウムを海水から取り出す技術の商用化に着手する。同社は国土海洋部と韓国地質資源研究院が国策課題として推進する「海洋リチウム抽出技術の商用化」に関する研究開発(R&D)プロジェクトの優先交渉企業に選定され、将来の量産を視野に入れた研究開発を本格化させる。
レアメタル(希少金属)のリチウムは、携帯電話やパソコンのバッテリー、セラミックなど産業全般で使われているが、最近はリチウムイオン電池を搭載したハイブリッド車や電気自動車(EV)の台頭で、いっそう脚光を浴びている。
ポスコは、ボリビアなど海外のリチウム鉱山開発に資本参加する一方で、将来的な供給不足に備えるため、自社生産に検討することになった。
ポスコらが取り組むのは、海水から塩分を抽出するような技術に似ている。世界の海水に含まれるリチウムの量は2300億㌧で、ボリビアやチリなどのリチウム保有国で採掘可能な埋蔵量1400万㌧の1万6000倍に相当する。このため、世界の海洋は「リチウムの宝庫」と言われている。
地質資源研究院が研究している技術は、ティーバッグのような袋に高性能吸着剤を入れ、リチウムだけを取り出すものだ。日本ではポリ塩化ビニルの成分を利用して海水リチウムを抽出する技術が研究されているが、それに比べると環境汚染の心配がなく、吸着剤も半永久的に使えるので経済性にも優れている。
ポスコは、この技術の商用化をめざし、新素材の研究開発センターである浦項産業科学研究院(RIST)所属の研究員を参加させる。来年から研究開発費150億ウォンを投じ、2014年までに商用化のめどが立てば、量産設備を整える計画だ。
今後、電気自動車などの普及が進めば、リチウムイオン電池の需要が急速に拡大する。世界のリチウム電池市場は、2020年には401億㌦に膨らむ見通しだ。さらに、2012年からはリチウムが供給不足に陥り、2020年には需要が供給の1・65倍となり、年間24万㌧が不足する事態になると地質資源研究院は予測している。
現在、2次電池メーカーのLG化学やサムスンSDIは、リチウムをチリや米国から輸入している。韓国のリチウム輸入量は、2007年の1万4368㌧(4億5400万㌦)から昨年は1万7635㌧(6億600万㌦)に増えるなど、毎年20%ずつ増えている。このため、輸入に依存せず、韓国でリチウムを生産する技術を確立することが急務となっている。
韓国がリチウム需要の拡大に備えるには、年産20万㌧規模の設備が必要とされ、これには最低1兆~2兆ウォンのコストがかかる。ポスコは5兆ウォンを超える現金資産を保有しており、投資資金の調達には問題はない。
特許技術移転専門会社の世宗技術取引所は、ポスコが海洋リチウム抽出技術を確立し、2020年からリチウムを年間30万㌧量産すると、最大2兆ウォンの営業利益と5000億ウォンの純利益が期待できると試算している。「経済性を確保できるかどうかが、量産化への投資を決めるカギになる」と語った。