韓国ではいま、物価上昇が続いて庶民生活を圧迫しているが、これに対応すべき金融当局は政策金利を引き上げることができない状況にある。景気が下降局面に入り、欧米の財政危機で世界経済の先行きが不透明になっており、景気動向を見極める必要があるからだ。金仲秀(キム・チュンス)・韓国銀行総裁は、物価を抑える利上げの代わりに、物価目標値を高めに修正する意向を明らかにした。これは、物価上昇リスクよりも景気下降リスクを重視したことを示すもので、今後金利論争が起きそうだ。
韓銀は先週の金融通貨委員会で、政策金利を年3・25%に据え置くことを決定した。これで3カ月連続の据え置きだ。
消費者物価が5%を超え、インフレ圧力が強まっているが、米国の景気鈍化や欧州の財政危機などで世界経済の不確実性が高まっているため、景気鈍化を考慮して利上げを断念した。韓銀法の改正で「金融安定」という役割を果たすため、利上げによって個人負債が増加することにも配慮した。
金総裁は金融通貨委員会後の記者会見で、「年間物価上昇率目標である4%の達成は非常に難しい課題」と述べ、事実上達成が困難であることを明らかにした。また、「まだ数値は話せないが、上方修正する可能性を綿密に検討している」と付け加えた。これは先月の「物価目標値を修正する考えはなく、修正する段階でもない」という発言とは大きく異なる。8月の消費者物価が前年同月比5・3%上昇し、一段と上昇圧力が強まっていることを示すものだ。
にもかかわらず、今後の利上げについては引き続き慎重だ。金総裁は「海外条件が不確かな状況で無謀に進むことはできない。教科書通りの対応だけをするのは適切でない」とも述べた。これにより、証券業界では、当面利上げはないという見方が強まっており、「韓銀が事実上、金利正常化という名分を取り下げた」という指摘までなされている。
利上げに慎重なのは韓国だけではない。フィリピン、インドネシアなど東南アジアの中央銀行も物価は危険な状況にあるが利上げを凍結している。オーストラリアの中央銀行は、世界景気の見通しが良くなるまで当分金利を凍結すると明らかにしている。
今年4月と7月にインフレ懸念を表明して利上げをした欧州中央銀行(ECB)の場合は、いまでは立場が完全に逆転し、インフレよりも景気浮揚に重点を置いた政策を取らざるを得なくなっている。
米国の景気も厳しく、世界経済の不透明感が金融当局を圧迫しており、インフレ懸念が強まっても利上げを難しくさせている。貿易依存度の高い韓国としては、利上げに慎重にならざるを得ないが、利上げ凍結を決めた先週の通貨金融委で利上げを主張し、凍結に反対した委員も出た。韓国の物価状況が極めて厳しくなっているのもまた事実だ。
企画財政部は、今月末に発表する「マクロ経済安定報告書」の草案づくりに入っているが、物価問題ついては「庶民と中産層の負担を加重させるリスク要因」と規定する方針だが、その一方で、「欧州の財政危機を韓国経済の主要なリスク要因」とみて、その影響を重点的に扱っている。
このマクロ経済安定報告書は、国会の提出要求を受けて、09年から作成しているもので、マクロ経済状況と潜在的リスク要因を総合的に分析・評価している。