韓国を旅行して気がつくのは、軍服姿で街を歩く若者の姿だろう。日本ではまず見られない光景だ。
▼6年ほど前に韓国を旅行した際、知人から軍隊生活の経験を聞いた。「祖国のためではあるけれども、大学生活を中断して、しかも頭を空っぽにしないと過ごすことの出来ない2年半は悔いが残る」と、しみじみ語っていた。
▼韓国軍最強といわれる海兵隊出身者や、学生デモを鎮圧した経験のある人からも話を聞いたことがあるが、訓練の過酷さ、規律のきびしさなど、軍隊がいかに日常生活とかけ離れた場所であるか考えさせられたものだ。
▼その韓国の徴兵制の実態を知る興味深い本が出版された。在日2世のフリーライター康煕奉氏が書いた、「こんなに凄いのか!韓国の徴兵制」(スリーエーネットワーク)だ。零下25度にもなる極寒の軍事境界線での勤務、地雷を誤って踏んで亡くなった新兵の話など、厳しい現実が紹介される。
▼もう一つ印象的なのは、その中でも青春を生き抜こうとする若者たちの姿だ。徴兵を逃れようと、インクをガブ飲みして病気に見せかけようとした男、恋人と別れて泣く青年、秘密裏に酒を手に入れて連日酒盛りに興じた話など、とても興味深い。
▼徴兵をめぐる非喜劇は、韓国映画にも多く出てくる。11日から公開される「美術館の隣の動物園」も、兵役中に休暇で恋人に会いにきた男性が失恋する設定だ。韓国を理解するには、徴兵制の理解が欠かせない。一読に値する本だ。(L)