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2001/11/02

<随筆>◇前田憲二監督の仕事◇

 ドキュメンタリー映画を手がけてきた前田憲二監督が韓国の文化勲章を受賞した。

 監督は、渡来文化をテーマにした「鉄と伽耶の大王たち」、渡来人の足跡にスポットを当てた「神々の履歴書」を製作して日本全国で上映会を開き、大きな反響を呼んだ。監督の映画を見て、日本文化のルーツが韓国にあることを知ったという日本人も少なくない。

 最近では、植民地時代に強制連行された韓国人や元従軍慰安婦の証言をまとめた「百萬人の身世打鈴」を出版するとともに、証言を収めたドキュメンタリーを製作、韓日の近現代史の掘り起しにも力を注いでいる。

 こういう仕事は商業映画と違い、華々しいスポットを浴びることはない。上映もカンパが頼りの細々としたもので、採算はとれない。右翼団体の妨害や脅迫も数知れず、電話番号を何度も変えたと聞く。

 監督の勇気とこれまでの苦労を思うと頭が下がる。監督は、「自国の恥部を見つめ、正しい歴史認識を持たなければ、真の韓日友好は不可能だ」と語っているが、その通りだと思う。

 歴史家トインビーは「歴史は知恵に通ずる」と述べている。前田監督の仕事にもっと注目してもいいのではないか。(N)