脳天にガツンと一発食らったような衝撃だった。感動で全身に鳥肌が立ち、汗がにじみ出た。
パリで活躍するピアニスト白建宇の日本デビューコンサートに足を運び、ド肝を抜かされた。思わず「リヒテルの再来だ」と叫んだほどだ。こんなにすごいピアニストが、これまで日本に紹介されなかったことが不思議でならない。
曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。世界3大難解協奏曲のひとつといわれる難曲中の難曲である。どんなに腕に自信のある演奏家でも尻込みするという曲で、日本デビューでいきなりこの曲をぶつけてくるあたり、並みのピアニストではない。
この曲を弾きこなすには、テクニックはもちろん、気力、体力、感性、集中力、ありとあらゆる要素が必要だ。彼の演奏のすばらしさは、打鍵が正確で音の粒立ちが鋭角的にまっすぐ迫ってくること、複雑な和音が冗漫にならず、にごらないことだ。ピアノ(弱音)の美しさもフォルテの迫力も申し分ない。
こういう演奏を聞くと、日本人は韓国人にはかなわないと感じてしまう。バイオリニストの鄭京和を聞いたときもそう思った。日本人にも世界で活躍する音楽家は多いが、秀才の域を出ない。そこへいくと、韓国人は天才だ。
白建宇はいま56歳。これから円熟の境地にさしかかる。彼はアジア人初の「ピアノの巨匠」になるに違いない。楽しみだ。(A)