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2001/06/15

<随筆>◇キューポラのある街◇

 在日同胞の密集地といえば、大阪・生野、神戸・長田、東京なら足立、荒川だろうか。昔は下町には必ず在日密集地があった。

 埼玉県川口市はむかし、キューポラ(銑鉄溶解炉)が立ち並ぶ鋳物工場地帯だった。町工場で働いたり、鉄屑回収業を営む在日同胞が、川口とその周辺に多く住んでいた。私の父もその一人で、近県から川口までスクラップを引き取りに行っていたものだ。

 50年代末に北朝鮮への帰国事業が始まると、川口でも新潟に向かう列車に在日同胞があふれかえった。川口の町工場で働く日本人家族を描いた小説「キューポラのある街」(原作・早船ちよ、62年日活)には、当時の民族差別や帰国する朝鮮人の高揚ぶりなどが詳しく描かれている。

 同小説は吉永小百合主演で映画になり、大ヒットした。そして劇団「東京シアターカンパニー」(東京都中野区)によって演劇化され、なんと40年にわたって上演が続けられている。今年10月には、初めて地元・川口での上演が実現することになった。

 かつてのキューポラのある街も、いまは大部分の工場が閉鎖され、マンションが立ち並ぶベッドタウンである。同胞密集地もすでになくなった。しかし、貧富格差や民族差別の問題を訴えた同劇が上演される意味は、まだ輝きを失っていないと思う。

 60年代の日本や在日の若者の青春を、現代の若者がどう見るか、ぜひ劇場に足を運んでもらいたい。(L)