韓国は詩人の国である。以前、詩人の韓成禮さんにお会いしたとき、韓国人はだれもが詩作に興じ、会社の社長が自作の詩集を出版することも珍しくないと聞き、驚いた。
詩を愛するのは、伝統的に培われた民族的資質であろうか。この国の風土は、時として天才詩人を生む。朝鮮朝中期(16世紀半ば)に生きた妓生、黄真伊(ファン・ジニ)は、詩だけでなく、書、音曲、水墨画などに通じ、自由奔放に生きた女性で、ペ昶浩の映画「黄真伊」を見て以来、すっかり魅せられてしまった。
わが心は色うつろわぬ山のごと/君が情けは移り行く碧き渓水/されど山をば忘れえで泣きつつも流れるか――恋情をよんだ真伊の時調(韓国固有の定型短詩)は、現代にも通じ、胸を打つ。中世にこのような女流詩人が存在したことに、いまさらながら、韓国という国の奥深さを感じずにはいられない。
伝え聞くところによると、真伊は松都(現在の北朝鮮・開城)の名門両班(貴族)の私生児として生まれた。8歳で「千字文」を習得し、10歳で「四書五経」を読破したといわれ、その才媛ぶりで、両班や儒学者、僧侶など当代一流の知識人を手玉にとり、権力には決してなびかなかったという。真伊は、生没年さえ定かでなく、その生涯はなぞに満ちているが、世俗を捨て、弧高の人生を生きた姿は、限りなく魅力的だ。
この真伊をテーマにした創作オペラ「黄真伊」が、韓国国立オペラ団によって4月15・16日、東京オペラシティーで上演される。どんな舞台になるのか、待ち遠しい。(A)