韓国で最も美しい紅葉といえば内蔵山の紅葉だといわれる。私は幸い、韓国で知り合った友人の案内でその紅葉を楽しむことができた。全羅北道の井邑市内から内蔵山国立公園まではそう遠くない。
途中、井邑市内の公園に寄り道して巨大な望夫像を見る。この望夫像は昔、行商の旅に出た夫の安否を気づかい、無事に帰ってくることを待つ妻の切ない思いが込められているという。
しかし、夫はいつまで待っても帰ってこない。待ち続けた末に、妻はとうとう化石になってしまったという悲しい物語である。
全国から紅葉を求めてやってくる人たちの車で、国道29号線はすでに渋滞していた。金仙橋を渡ると全山が真っ赤に染まっているのに、私は思わず目を見張った。
ここにある内蔵寺は百済武王37年(636年)に建てられた歴史の古い寺で、韓国の深山渓谷には、こうした古寺が意外に多く残っている。
一柱門から大雄殿までの参道は、紅葉のトンネルになっていて善男善女ですでに溢れていた。紅葉が赤く映えている上に、女性たちの服装までが赤くてとても華やかである。韓国の女性は、いつのまにか赤いセーターを好んで着るようになったらしい。あちらこちらで、どんちゃん騒ぎが始まり、手と腰を絶妙にくねらせて踊っているグループもいる。
私たちは本堂にある秘仏の釈迦如来像を拝見したあと、定慧楼のあたりまで散策した。紅葉は、散ったあとは必ず厳しい冬の季節が訪れるのだから、静かな雰囲気のなかで味わいたいものである。
ロープウェイに乗って、あたかもアルプスに似ている「西来峰」の奇岩怪石を見るのも一興かと思ったが、人の多さに辟易して遠慮することにした。
ついで、内蔵山から山岳道路を一気に登って険しい山越えをする。すると、もうそこは全羅南道の長城郡であった。しばらく行くと「古仏叢林」として有名な白羊寺の門の前に出た。
この寺は僧侶が厳しい修行をすることで知られる格式の高い寺といわれ、そのせいか、寺の背後に聳える岩山は剥き出しの荒々しい形相をしていて、思わずその景観にぎょっとさせられる。
白羊寺周辺の紅葉も充分に美しく、何よりも人の姿が少ないのが気に入った。また、韓国の秋の空がこんなに青く澄んでいることに今さらながら感嘆した。
車から降りた2人は、参道の細かい道を伝い、奥へ奥へとどこまでも進み、渓流のそばに出た。そのとき、確か韓龍雲に次のような詩があったことを思い出した口遊んだ。
青山が萬古なら
流水は幾日ぞ
水を追って山中に分け入れば
行き交う人のいくばくぞ
青山は黙して語らず
水の流れゆくのみ
チェ・ソギ フリーライター。慶尚南道出身。立命館大学文学部卒。朝鮮近代文学専攻。