韓国の料理にはスープを使った料理、つまり汁物料理が多くていずれも美味い。ザッと上げただけでも、カルビタン、コプチャンチョンゴル、キムチチゲ、テンジャンクッと、日ごろ馴染みの汁物料理がすぐに浮かんでくる。つまり、タン、チゲなどがついた料理はいずれも汁物料理なのである。
では、それぞれの呼び方の違いは何ぞや?時々、当地の友人に聞いてみるのだが、「昔からそう呼んでいる」と、乱暴な答えしか返ってこない。ところが先日、取引先のある理事がチゲとタンの違いを説明してくれた。曰く、「一つの鍋を皆で食べる汁物料理はチゲ、例えばブテチゲ。一方、各人が別々に食べる汁物はタン。例えばソルロンタン」分かったようで分からない。我が社の物知りオジサンは違った解説をしてくれた。
「牛骨などでじっくりだしを取ったスープを使うのがタン。後から味付けするのがチゲ」少し分かりやすい。それではチョンゴルとは?「チゲと同じだがやや上等なもの。その証拠に宮中チョンゴルという料理がある」。本当かな?。
より正確さを求めて、鄭大聲教授著「朝鮮半島の食と酒」という本で調べてみた。流石に理論的な説明である。「汁物は具材と水分の関係で三つ、つまりクッ、タン、チョンゴルに分けられる。クッは水分が多くて具材は20-30%くらい。タンは材料と作り方はクッに似ているが、水分が少なく、スープが濃いのが特徴。具材とスープの量はほぼ半々」。成る程分かりやすい。
「ところが現実にはこの違いが曖昧になり、クッとタンは同じと解されているのが一般的」。あれあれ?「チョンゴルはタンよりも水分が少なく、スープが澄んでいる。高級料理の神仙炉はこのチョンゴルの豪華版」。簡単に言えばスープの量の違いがポイントのようだ。さらばチゲとは?「李王朝の頃、クッから分化したもので、主に味噌仕立て。水分はクッよりずっと少なく味が濃い」。頭が混乱してきた。結局は「昔からそう呼んでいる」のがもっとも分かりやすい。
もうひとつよく分からない料理に焼肉の一つ「チャドルベギ」がある。薄くスライスした肉片に白っぽい脂身のようなものが散らばっていて、あっさりした味は肉々しくなくて人気がある。チャドルとは韓国語で点々とした模様のある石(石英)のことをいうらしいのだが、このチャドルベギとは牛のどの部分なのか、以前からの疑問がまだ解けていない。食べる度に店の主人に聞くのだが、店によって答えが違っている。喉の部分、腹の部分、胸の部分といろいろ。総合するとどうもヤンジモリといわれる胸肉の部分のどこかに隠れているらしい。
さすればチャドルベギの白い部分は何ぞや?脂身でないことはみんな認めている。軟骨でもない。ある店のアジュマは腕に力こぶを作って「この筋肉質のようなもの。これを食べるとこのように精力抜群になる」。当地ではすぐに精力の話になる。行きつけの店の主人が面倒臭そうに言った。「白い部分があるからチャドルベギというの」。納得しよう。
(本紙2002年9月27日号掲載)
おおにし・けんいち 1943年福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、昨年7月から新・韓国日商岩井理事。