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2002/06/21

<随筆>◇ケナリの花◇  産経新聞 黒田勝弘ソウル支局長

 韓国の春の代表的な花は、小さな黄色い花を枝いっぱいにつけるケナリだ。背の低い潅木なので、道端によく植えてある。枯れ枝にまず花がワッと咲き、しばらくすると緑の葉にいっせいに変わる。この変化が韓国の春のあわただしさを象徴していておもしろい。

 韓国の春でもう1つおもしろいのは木蓮(もくれん)-「モンニョン」だが、これを街路樹にしているところがある。西江大学の裏通りで、木蓮の並木になっている。

 これが春先のある日いっせいに白い花を咲かせる。枯れ木に突然、真っ白い花がパーッと咲く。夜にながめると幽玄の趣がある。

 ところでケナリのほうは日本語では連翹(れんぎょう)と漢字が難しい。中国起源だろうか。英語ではGOLDEN・BELL・TREEという。黄色い花のかたちが鐘に似ているからだろうか。

 この「ケナリ」の名前について実は、もともと英語の「キャナリ(CANARY)」つまり鳥の「カナリア」からきたという説がある。黄色い小鳥のカナリアみたいな色だから、昔、西洋人が韓国にやってきて、あの花をみて「オオ、キャナリ!」といったことから「ケナリ」になったというのだ。

 この話、1970年代に語学留学した当時、学校の先生から聞いたように思う。その後、ほかでも聞いたことがある。なかなかよくできた話だが、はて。ただ、カナリア起源だとすると「ケナリ」になる前は韓国人たちはどういっていたのかな。誰か真相を教えてくださーい。

 似たような話が韓国語の「ノダジ」についてもある。辞書によると、ノダジというのは、本来は金(きん)などがザクザク出てくることをいう。そこから、いいものがたくさん見つかったり、ドッと出てくることを意味するようになった。

 これも昔、西洋人が韓国で金を採掘していい金鉱が見つかった際、そこに縄張りして近寄る韓国人たちにしょっちゅう「ノー、タッチ!」というものだから、金がザクザクでることを「ノダジ」というようになったとか。この説はわりと信じられているようだが、はて。

 春の花にもどれば、韓国でも近年は春の花というとケナリやモンニョンあるいはチンダルレ(つつじ)などより、もっぱら桜が人気だ。

 各地から桜便りがマスコミで伝えられ、人びとの花見気分をうながす。このコラムでも過去、何回か韓国の桜の話を紹介している。韓国人も今や「桜イコール日本」のイメージを脱し大いに楽しんでいる。

 それでも気に食わないナショナリストはいるらしく、桜ブームを批判する嫉妬がらみの新聞投書が出ていた。投書は同時に韓国の国花であるムクゲ(無窮花)について「なぜムクゲ祭りやムクゲの花見をやらないのか!」と憤慨していた。ムクゲも美しいが、しかし潅木で夏の花とあってはどうも花見になりにくい。
                  (本紙2002年4月5日号掲載)


  くろだ・かつひろ  1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信外信部を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。