詩人の竹久昌夫さんが亡くなったと聞いた。東京・東久留米のアパートでだれにもみとられず孤独死した最後を思うと胸がつぶれる。
「言葉よ/君はすでに気づいたのか/黒い装束で訪れるとは 」。本名・姜昌中。世間に認められることはなかったが、研ぎ澄まされた感性を魂の奥からしぼりだすようなことばに置き換えた詩は、余人のおよばぬ高みにあった。
詩では食べていけず、手先が器用だったことを生かして仕立て服のお針子として生計を立てていた。竹下さんがつむぐことばは、文字通り布地に針を突き刺すような痛みがあり、まさに孤高の詩人であった。
かれこれ15年ほど前、本紙の東京本社を訪ねてきた竹下さんとお会いし、いろいろお話をうかがったことがある。とても繊細で穏やかな方だったが、詩に対する情熱はこんこんと湧き出る泉のごとく、枯れることがなかった。
竹久さんは、韓国の詩を美しい日本語に置き換え紹介するなど詩の韓日交流にも大きな役割を果たした。62歳の死は、あまりにも早すぎると悔やんで余りある。
このような詩人がいたことを忘れてはならない。どこか、竹久昌夫全詩集を編んでくれまいか。(N)