ずっと行きたい、見たいと思っていてなかなか行けない場所やお祭りがある。例えばモンゴルの広大な草原とか世界遺産の杉の屋久島、ベニスの仮面祭りや青森県弘前のねぶた祭りや北海道根室のさんま祭り等など。光州のキムチ祭りもおととし知り合いに聞いてぜひ行きたいと思っていた。
去年、話が盛り上がって3人で出かける予定で飛行機のチケットの手配までしたのだが、ひとり都合が悪くなって取りやめて以来、何だか意地でも行きたいという思いにかられて先月、満を持して光州へと出かけた。
20歳のときに祖母と韓国に初めて行って、すねかじりの気楽さで1ヵ月ほどソウルや釜山やテグ、慶州とのんびり韓国周遊をして以来、韓国と言えばソウル限定のようになっていた。ホテルもいつも同じ、楽しいけれど、芸のない滞在ばかりだったと反省したことが光州行きの大きなきっかけになった。
また、最近、韓国の食に俄然興味がわいてきたせいもあるかもしれない。ソウルに行くたびに、時間さえあったら韓国の伝統料理を教えてくれる教室に通いたいと思っている。
光州はしっとりと秋色を帯びていた。キムチ祭り会場の光州市立民族博物館周辺は木々が色づき始め、ソウルよりちょっと素朴な感じの家族連れが多かった。
展示場では歴代の大統領賞受賞(!)のキムチの数々が飾られ、外のイベントスペースでは、キムチ漬け競演やうたや踊りの行事が行われている。水曜から始まり日曜に終わる5日間の開催のうち土、日を会場で過ごした。会場にはテント張りの食堂やキムチ即売場、食材売場が軒を連ね、目に鮮やかなキムチが並び、独特の空気が香る。韓国人の味覚DNAが喜んで、騒ぐようなあの香りの渦に身をゆだねる至福の時。ぎちぎちとひしめくようなソウルの市場とは、また違うゆったりとした空の下でキムチを試食する楽しさは格別だった。
会場で麻浦から来ているという塩辛売り場のアジュマと知り合った。そこでチャンジャの瓶詰めを買ったあと、夕食の場所を尋ねたら会場の食堂まで案内してくれて、私たちがオーダー後も席に座ったまま、キムチへの思いを語ってくれた。本当に美味しいキムチを作って売りたいと言う。
材料費がかさんでも、ほんとに美味しいものこそ人の心をつかむから最初は儲からなくても、必ず本物の味のキムチの商売は成功すると思う、と話してくれた。別れ際「オンニが作ったキムチを食べなきゃ、私はあの世にいけない。必ず食べさせてね」と言ったら、アッハッハと嬉しそうに笑っていた。
ソウルに行くたびに食に対するエネルギーに圧倒される。人を押しのけてでも強く健康になれる食を求めているような、暑苦しさを感じるのは私だけだろうか?
今回は美味しい物を食べると精神が健やかになるような、そんなことを実感した。光州で買ったチャンジャは、心に染み入るようなおいしさだった。美味なるものは人の心を動かす。
(本紙2002年11月8日掲載)
ユン・ヤンジャ 1958年、神奈川県生まれ。在日3世。和光大学経済学部卒。女性誌記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」を設立。