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2003/03/28

<随筆>◇2003年2月25日◇ 韓国ヤクルト 田口亮一共同代表副社長代行

 今年の冬は余り寒くはなかったがくもり空が多いようです。2月21日の金曜日は気温も上がり、お日様も顔を出して春の到来を感じさせてくれたものの、その日だけ。 土曜日は小雪もちらつく冬空に逆戻りして、それから今日まではお日様は全く顔を見せず。毎日の新聞、テレビで報道されるイラク査察継続是非問題や北韓核問題で、それでなくてもうっとうしい世情に天候までがこれだから、元々楽天家の私もこのところいささかウウル(憂うつ)傾向なのです。

 やはりそんな天気の2月25日に第16代盧武鉉大統領の就任式が行われました。先日起きた大邱の地下鉄火災事故犠牲者の方々に哀悼の意を表わす意味もあり、派手なアトラクションなどは始めの予定から省かれてかなり簡素化されたと聞きましたが、それでも内外の著名人を始め(もちろん我が小泉首相も今度は泊りがけで参席されました)4万人強の人々が就任祝いに集まったそうです。

 そこでテレビに写し出された歴代の大統領の皆さんのお姿を見て私は正直ドキッとしてしまいました。朴大統領の姿こそ見えませんがその後の暫定大統領の崔圭夏氏、全斗煥氏、盧泰愚氏、金泳三氏そして金大中氏ご夫妻(ご夫妻参席はここだけ)と全ての方々が(その施政の是非はさておいて)懐かしく或る種の感慨をもって思い出されたからです。

 一人5年任期としてこんなに沢山の人々が交代する間、ズーッと韓国に居たのかと思って我ながら驚いた訳でした。これはとりも直さず私が本当に長い間韓国でお世話になったんだナァと云うことを実感させてくれるものでした。それにしても皆さん元気だよナァー(これ本音)。

 さていよいよ本日のクライマックスである盧武鉉大統領の就任挨拶が始まったのですが、私の記憶では今までの人は誰の時でもあらかじめ原稿を持ってややうつむき加減で読み上げると云うスタイルだったと思うのですが、盧大統領は原稿無しでいきなり挨拶に入り、約40分間内外に対する所信を堂々と述べられました。

 後でニュースで知ったのですが、この就任挨拶は内容・話し方ともはなはだ好評だったとのことです。私はさすがに話し上手と噂の高い弁護士出身の大統領だけの事はあるナァと単純に感心していたのですが、午後から会社の人々何人か集まった時に多少のアブ(お世辞)を含めてこのことを話したら、ある人は「私共は我々の大統領にそんなに頭が良くて格好良い人を望んでいる訳ではない。もし就任挨拶という世界の注目を浴びている所信表明で一寸でも誤解されるような事を云った場合はどうするんだ」と、いささかの懸念を表わしました。

 いわれてみるとこの意見には「ムムッ成る程」とうなづかせる説得力があり、見た目だけで判断しがちの私を大いに反省させてくれました。いずれにしてもこれから5年間、政治的にも経済的にも外交的にも立派な指導力を発揮して頂くよう願ってやみません。
             (本紙 2003年3月7日号掲載)


  たぐち・りょういち 1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。