先日、秋の陽気に誘われて仁寺洞をぶらついていたら懐かしい果物に出会った。「アケビ」である。産地直送風荷車にはアケビの他にイチジク、ザクロも満載されていた。いずれも子供時代を想い起こす懐かしい山の果物だが、特にアケビは珍しい。早速買って口にしたが、一時期、初恋の味ともてはやされた清涼飲料水のカルピスに似た上品な甘さが口一杯に拡がった。白い果肉の甘さを堪能した後、口一杯に残っている種を豪快に吹き飛ばすのがアケビの醍醐味なのだが、舗装された街中ではこの快感を味わうわけにはいかず、捨てるのに苦労した。
アケビだけでなく韓国の秋は山の幸で溢れている。特に私の好きな「きのこ」が豊富に出回るので楽しい。きのこの王様は何と言っても「ソンギボソ(松茸)」だが、韓国でも堪能するにはお値段が高すぎる。でも松茸でなくとも美味しいきのこは目白押しだ。「ピョゴボソ(椎茸)」「ペンギボソ(えのき茸)」「ヌタリボソ(ひら茸)」「ヤンソギ(西洋松茸)」「モギボソ(きくらげ)」と枚挙に暇がない。特にペンギボソは鍋物、炒め物と韓国料理には欠かせない。比較的新しいきのこで「セソギボソ(新松茸)」というのが最近人気急上昇である。日本では「エリンギ」と呼ばれているが、ご存知のように外観は松茸そっくり、歯ごたえもそっくりだが惜しむらくは匂いがない。
この松茸そっくりさんが当地の市場に初めて顔を見せた時は、小生は思わず「遂にやった」と奇声を上げたものだ。というのは、松茸の養殖は人類の夢(?)であり、韓国でもかなり以前から盛んに試されていたが、未だ誰も成功していないのである。一時期、済州島で遂に成功というニュースが出たがガセネタであった。小生の記憶ではこのセソギボソは日本よりもまず最初に韓国に姿を現している(はずだ)が、韓国人の松茸養殖への執念かもしれない。
最初の頃、行きつけの韓定食の店ではこのそっくりさんを「松茸」といってうやうやしく出して来たが、香りに敏感な茸大好き日本人(小生)は直ぐに見抜いてママさんにクレームしたものだ。香りもさることながら、本物以上に堂々たる風貌も小生は個人的に気に食わない。かように松茸の養殖は難しいが、つい先日、あるデパートの地下食品売り場で新品種を発見した。その名も「チャムソギボソ」。チャムとは「真の」という意味だから「真の松茸」ということになる。形状は本物よりもチビで太目で頭でっかち。一見、どんぐりのお化け風である。1パック4本入りで1万ウオンは安くはない。遂に養殖成功か、と逸る心を抑えながら1パック購入し、行きつけのレストランで焼いてもらった。
香り 少し弱いがあることはある。歯ざわりは ウーン。本物に比べるとかなり物足らない。でも、寸足らずの形状は個人的に気に入った。松茸のそっくりさん競争は大歓迎である。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。