このところ明洞のメィン通りを歩いていると、4、5人が一塊になった日本の中年のご婦人方によく出会う。
彼女達は、外国の街を歩いているといった違和感の片鱗も見せず、賑やかに大きな声でしゃべり、笑い、関心を引くものを見つけると一斉にそこに群がって行く。
地下鉄の乙支路入口駅では、出札口の上の路線図を指差しながら、ご婦人方と韓国の女学生達が重なりあって、それぞれの国の言葉で話しているのだが、意味は通じているようだ。
つい最近まで、ショッピングとエステなどを目的の日本の若い世代で賑わった韓国が、急に中年のご婦人方の世代にまで広がっている。
ご存知テレビドラマ『冬のソナタ』の熱心なファンの多くが、愛する主人公達の世界を訪れ、その息吹きに少しでも触れたいと、韓国を訪れているのである。
バイタリティ溢れる彼女達のその姿を見ると、日本の人達の韓国への関心がようやくここまで来たかとの喜びと安堵、呆れの混然とした固まりが、私の胸の中を横切って行く。
ひと頃前は、この世代のご婦人方に韓国のことを話しても、私の嫌いな言葉「近くて遠い」との、マスコミ等の偏見的な表現の影響で、韓国への知識や理解の道がなかなか遠く、例えば韓国料理の話しをしても「辛い」の一言に括られ、辛くない美味しい料理もあるよといくら話しても、嘘~ォと、頭から笑われたことも数しれなかった。
それがいつの頃からか、近くのスーパーやコンビニにキムチや韓国産のラーメンが、焼酎が並び、東京新宿の職安通りはソウルの市場に負けんばかりの韓国食材、料理の店や、屋台、韓国の雑誌、書籍などが並ぶ店に人々が群がるようになった。
そればかりか、私の住まいの近くの小さな書店でさえも、話題の「ハリー・ポッター」の新刊本の山に劣らぬほどに韓国ドラマ紹介の雑誌が山となって積まれ、その場から韓流ブームの香りが、ムクムクと沸き上がっている。
ドラマの主人公を追い、空港へ、ホテルへ、そして彼らの足跡の地まで訪れるご婦人達。彼女達がこれを機会に、ドラマの主人公達への憧れを通じて、韓国に、文化に、街に、地方に、人々に、生活に関心を持って韓国を訪れて欲しい。
さらには、韓国語でファンレターを書いてみたいとか、チャンスがあれば一言でも良いから韓国語で声を掛けてみようなどと、ご自分の満足度を倍加するために、韓国語を学ぶなどの前向きの姿勢にも期待したい。
このような形で韓流ブームが、単なる一時のファッションではなく、そして、年を重ねたご婦人達に限らず、世代を越えて、男女、多くの人達の中に様々な形で浸透して行くならば、これも私の好きではないマスコミ用語だが、「韓国は近くて近い国」になることは明らかである。
私がこの時期まで長年韓国に浸って来た成果が、ようやく鮮やかに描かれつつあると、期待したい。
やまなか・すすむ 東京生まれ。広告会社勤務時代に大韓航空、韓国観光公社を長年担当。ソウル駐在経験もある。NHKハングルテキスト他にイラストとエッセーも執筆。