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2004/11/05

<随筆>◇"会合(アイゴー)会"とは何ぞや◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 日本では‘冬ソナブーム’のお陰で韓国語への関心が高まっているという。いい話である。70年代から韓国語を志してきたぼくとしては感慨深い。

 日本での韓国語の歴史は興味深い。昔は警察や入管、自衛隊などでもっぱら熱心に学ばれていたので、どこかネクラな感じがあったが、1980年代に入ってNHKの外国語講座に登場して以来、イメージもネアカになったように思う。

 それでも韓国語か朝鮮語かという問題があって、今でもくすぶっている。国立の外語大では依然、朝鮮語学科といっている。誤解を恐れずにいえば、「朝鮮語」にはどこかネクラな感じがあるのに対し「韓国語」はネアカな感じといおうか。これには「朝鮮語(チョソンマル)」といっている北朝鮮のイメージが影響しているのかもしれない。

 ぼくは韓国で学んだため「韓国語」といっているが、この言い方はそんなに古くはない。70年代後半から徐々に広がり、80年代後半あたりから日本で定着したように思う。この流れは韓国という国の発展と国際的地位の向上に一致する。差別や偏見の問題もそうだが、その国が大きく強くなることが外国でのイメージ改善には決定的だ。

 その意味で日本社会における韓国語(朝鮮語)は1980年代を境にして、いわば‘陰語’から‘陽語’に変わったといっていいだろう。それに一昨年からだったか、大学入試のセンター試験で「韓国語」として選択外国語になったことも大きい。これは「韓国語」という言い方が完全に日本社会に定着したことを意味する。

 ついでにいえば韓国語の広がりは意外に大きい。海外在住者を含めればその人口は八千万人に近くなる。この言語ネットワークは注目していい。ぼくもニューヨークやロス、北京、モスクワなどでその恩恵を十分に楽しんだ経験がある。

 ところで先日、日本からの団体のお客さんがあり、話をさせられることがあった。その際、せっかくの韓国旅行だから韓国人になった気分で韓国語の一言くらい覚えて帰ってくださいという話をした。そこで紹介した「この一言!」が何かというと「アイゴー」である。

 これは韓国人がよく使う感嘆詞だが、日本人が「哀号」と当て字をしたような悲しい意味だけではなく、喜怒哀楽あらゆる場合のちょっとした驚きの言葉だ。旅行中に食事がおいしくてもまずくても、品物が高くても安くても、この「アイゴー」が使える。日本語でいえば「どうも、どうも」に似たような便利な言葉である。

 その場で皆さんに「アイゴー」をどんどん使ってもらって好評だった。話が終わって帰る時も一同「アイゴー、ありがとうございました」などいって楽しんでおられた。その後、帰国した一同からお礼の便りをもらったが、この韓国旅行を機に一同は「会合会(アイゴー会)」をつくったという。うれしい話だ。


  くろだ・かつひろ  1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。