光州での国際現代美術展である「光州ビエンナーレ」が今年で十周年になり、ただいま開催中だ(十一月十三日まで)。ビエンナーレとは二年に一度の美術展という意味だから、今年で五回目だ。現代美術はハプニング的なものなど意外性があっておもしろい。美術だ、芸術だといってもおもしろくなくちゃ。例えば韓国人で世界的な芸術家である白南準は、ぼくの大好きな作家だが、ハプニング芸術からスタートしビデオアートの大家となった。その意味で「光州ビエンナーレ」はいつも楽しい。ただ地元が「光州事件」を意識し過ぎて頭デッカチのキライがあるのは毎度、ちょっぴり難点か。
今回、オープニングに出かけたところ、会場で中年の人気歌手兼タレント(?)、趙英男に会った。ソウル大美術科卒業とかで美術の素養がある。花札を素材にした妙な作品を出品していたが、「なぜだ」と聞いたところ「韓国人の花札をめぐる二重意識、つまり対日感情の二重性を象徴した」と言っていた。最近、「ぼくは親日派だ」と韓国世論に皮肉を投じている彼らしい意図だが、出来映えはいまいちかな。
ところで今回、光州に出かける気になったのは、このほかにも別の狙いがあったのだ。招いてもらった主催者には申し訳ないがこの際、個人的にぜひやりたいことがあった。それは光州を流れ下り木浦に達する全羅南道を代表する川、栄山江での釣りだった。
実はぼくは今年から釣りを始め、これにまったくはまってしまったのだ。釣りといってもエサを使わないルアー・フィッシングだ。動き回りながら投げでは引くこの釣りは運動になる。エサを使わないからいつでも、どこでも、思いついたときにやれる。クリーンでスマートなのだ。ソウルの漢江でトレーニングを積んだ。その成果をもとに湖南の名勝・栄山江でぜひサオを投げようというわけだ。
ソウル発の飛行機が出発するまで、ビエンナーレ会場から羅州・九津浦の栄山江の岸辺にタクシーを飛ばし約四十分間釣りをした。タクシーを待たせてである。この”情熱”が効いたのだろうか、たちまち三匹釣り上げた。ブラックバスが二匹、コウライハスが一匹。なかなか掛からないルアーにしては異例の釣果だ。感激、感動、見物のタクシー運転手も大喜びだった。
飛行機時間を気にしながら、きびすを返して空港に急いだ。「寸暇を惜しむ」とはこういうことを言うのだろう。「釣った魚はどうしたの?」との声が出そうだが、ぼくはいつもリリースしているので問題ありません。釣れた時のあの感触で十分なのだ。
ルアー・フィッシングは実におもしろい。とくに川では韓国固有の魚種に出合える。新たな韓国の発見だ。もう韓国ではゴルフはやめた。これからは時間が許す限り韓国中の川を訪ねて釣りに励みたい。韓国は奥が深い。二十年以上いてもまだまだ飽きない。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長